神に選ばれなかった者達 前編

「お、お化けっ…。お化けーっ!」

「えぇ?いや、お化けじゃないよ、のぞみ。落ち着いて」

え?この声。

恐る恐る後ろを振り向くと、そこにいたのは。

「あ…お兄ちゃん…」

「…大丈夫?」

お化けじゃなかった。お兄ちゃんだった。

び、びっくりしたぁ…。

「も、もう…脅かさないでよ、お兄ちゃん…!」

「ご、ごめん…。全然脅かすつもりはなかったんだけど」

そうだよね。

私が勝手にびっくりしただけです。はい。ごめんなさい。

「無事で良かったよ、のぞみ。探したんだよ」

「う、うん…」

「こっちから物音がしたから、のぞみがいるのかと思って…」

さすがお兄ちゃん。

物音が聞こえたら逃げるんじゃなくて、自分から向かってくるとは。

真っ先に逃げの一手を選択した私とは、度胸が雲泥の差。

どころか、私はそんなお兄ちゃんをお化け呼ばわりしてしまった。

大変申し訳ない。

…って言うか恥ずかしい。

私がビビりみたいじゃない…。…まぁビビりなんだけど…。

「大丈夫?のぞみ。怪我はしてない?」

「うん…。大丈夫、ここに隠れてたから…」

「でも、向こうに血がついてる」

お兄ちゃんは、病室内の床の血痕を指差した。

あぁ、あれは…。

「私の血じゃないの。元々、この部屋にいた誰かのものだと思う」

「あ、そうなんだ…。…じゃあ、のぞみは無傷なんだね?」

「うん、平気」

「それなら良かった。安心したよ」

心底ホッとしたように、お兄ちゃんがそう言った。

…私の方こそ。

「…お兄ちゃんは?お兄ちゃんも怪我してない?」

「うん、大丈夫…」

と、お兄ちゃんが言いかけたその時。

「ァァァァァヤァァァア!!」

人のものとは思えない、凄まじい叫び声が廊下に響き渡った。

その時の私の驚きと言ったら、思わず言葉を失った。

同時に、廊下の向こうから、ガラガラと何かを引き摺るような音が勢いよく近づいてきていた。

私は足が固まってしまったが。

お兄ちゃんの動きは速かった。

異様なモノが近づいてきていることを察したお兄ちゃんは、すぐさま病室の中に自分と私を引き込み。

急いで、病室の扉を閉めた。

お陰で、見つからずに済んだが。

「ァァァァァヤァギ!!ゥゥゥルレ…ワ!!」

その叫び声が、段々と近づいてくる。

恐怖と怯えのあまり、私も悲鳴が出そうになったが。

お兄ちゃんが私の口を塞ぎ、悲鳴が漏れ出るのを防いでくれた。

病室の扉の前を、ストレッチャーが勢いよく運ばれていくのが分かった。