神に選ばれなかった者達 前編

学校の次は…病院か…。

…何だか不気味な病院。

空気がどんよりと淀んでいて…何だか、お化けでも出てきそう…。

…ぞくっ。

部屋の中に誰もいなかったのは良かったけど。

でも、使われていない部屋の割には、きちんと掃除がされている。

窓にはきちんとカーテンがかけてあるし、埃っぽさもない。

カーテンと言っても…暗幕みたいな、重たくて黒いカーテンだ。

これじゃ光を通さないだろうに…。カーテンを引いたら、昼間でも部屋の中は真っ暗になりそうだ。

ずっと放置されてた部屋、って感じがしない。

まるで、つい昨日まで誰かが使っていたような…。

「…!」

それもそのはず。

私は、恐る恐る部屋の中のベッドに近づいて、「そのこと」に気づいた。

…ベッドには、寝乱れた跡のついたシーツがかかったままだった。

それに怯えた訳じゃない。

私が思わずびっくりしてしまったのは、そのシーツに、血痕がついていたことだ。

ほんの数滴、どころじゃない。

コップの中身をぶち撒けたかのように、べったりと血の痕が。

しかも恐ろしいことに、その血はまだ乾いていなかった。

シーツどころか、床にまで点々と、血の滴が零れ落ちていた。

…。

…やっぱり、ほんの数時間前まで、この部屋には誰かがいたのだ。

ここだけ鍵がかかってないなんて変だな、と思っていたら。

ここに寝ていたはずの人は、こんな大量の出血をして…。
 
別の部屋に運ばれたのか…それとも…。

…ここから先は考えない方が良い。

多分、この部屋で寝ていたのは女性なのだろう。

へこんだままの枕に、長い髪の毛が数本絡まっていた。

生々しいベッドの痕を、私はしばらくじっと見つめていたが。

…いつまでも、ここにいちゃいけないよね。

いつ、この部屋の患者が戻ってくるか分からないし…。

それに…お兄ちゃんや、他の『処刑場』メンバーとも合流したい。

無人のこの部屋は、一見安全そうには見えるけど。

私達の目的は身の安全を確保することよりも、バケモノを倒すことなのだから。

いつまでも、逃げ隠れている訳にはいかない。

それに、この部屋はあまりに不気味だった。

誰かに見られているような気がして、落ち着かない。

…とりあえず、ここが病院だと分かっただけでも充分な収穫だ。

私は、そっと病室の扉を開け、廊下の様子を伺った。

…よし。誰もいないみたいだ。

意を決して、何とか外に出、

「のぞみ」

「ひゃうっ!?」

病室の外に一歩、足を踏み出した途端。

誰かにぽんと肩を掴まれ、私は飛び上がって悲鳴をあげた。