神に選ばれなかった者達 前編

信じられない気分だった。

何十年ぶりに、生きてる普通の人間を見るような。

…あ、そうか。

もう、夢…覚めたんだった。

何はともあれ、目の前にいるのがゾンビではなく、生身の人間なんだということが分かって。

ホッとすると同時に、身体から力が抜けた。

「えっと…。あの、響也兄ちゃん…大丈夫?」

「…」

昨日までは、大丈夫かと聞かれたら、大丈夫だと答える気力があった。

でも、今朝はもうそんな気力もなく。

力無く、その場に蹲るようにして自分の膝を抱き寄せた。

…今、生きてるだけでも不思議なくらいだ。

あんなに何度も死んだのに…。

「あの…。今日も、良かったら勉強…教えてもらおうかと思ったんだけど…」

「…」

「…ご、ごめん。やっぱり無理だよな…。体調、悪いみたいだし…。…風邪?」

…ただの風邪だったなら、どんなに良かったか。

自分の役目は分かっているけれど、今はとてもじゃないけど。

眞沙に勉強を教える、なんてことは出来そうもなかった。

それどころか、ろくに返事も出来ないのに。

「お…起こしてごめんな、響也兄ちゃん…。今日はゆっくり休んでくれ」

空気を読んだ眞沙は、慌ててそう言って。

勉強道具を抱えたまま、俺の部屋から出ていった。