神に選ばれなかった者達 前編

部屋には、鍵がかかっていた。

どの部屋にも、ガッチリとした南京錠が。

一体何を閉じ込めてるって言うの?

何とか鍵がかかってない部屋がないかと、必死に探し続けると。

「あっ…!」

ついに、見つけた。

その部屋だけ、何故か南京錠がかかっていなかった。

…ここなら。

もう時間がない。急いで逃げなければ。

私は、鍵のかかっていない部屋の扉を引き。

急いで、素早くその部屋に身を隠した。

…その中にバケモノがいたら、いずれにしても私の負けだった。

でも、部屋の中には何も、誰もいなかった。

それは幸いだったけど。

廊下から、先程のぞっとする気配が、足音をコツコツと立てながら歩き去っていくのが分かった。

私がここにいることを知っていて、その不気味な気配が部屋の中に入ってくるかもしれない。

どうか見つかりませんようにと、私は必死に祈った。

私はドアの内側に座り込み、気配が通り過ぎてくれるのを待った。

…部屋の中で、一体いつまで身を縮こませていただろうか。

気がつくと、不気味な気配は何処かに過ぎ去っていた。

…。

…どうやら、難を逃れたようだ。

「…はぁ…」

私は、深い溜め息をついた。

何とか生き延びることが出来たけど、こんな幸運が一体いつまで続くことか。

それに…お兄ちゃんとも合流出来ていない。

部屋の中は無人だけど暗くて、じっとりと湿ったような空気だった。

部屋の中に置いてある家具は、ベッドだけだった。

「…ここって…」

…もしかして、病院?

生まれてこの方、病院にはほぼ全く縁が無いから、はっきりとは分からないけど…。

ほら、スラム街には病院って、ないのよ。

病気や怪我をしても、お金がないから病院にかかることが出来ない。

民間療法か、自己治癒力に頼るしかない。

健康保険?は?何それ美味しいの?っていう状態だし。

病院=お金のかかる場所というイメージが強くて、私にとっては敷居が高過ぎる。

スラム街専用の病院もあるにはあるけど、その類の病院は信用性に欠ける。

病の特効薬だと言って、高額の薬を買わされたかと思ったら、それ、実はただのラムネだったり。

ろくに消毒されていない医療器具で治療されて、病気を伝染されることもしばしば。

それならまだ良い方で、中には医療の為と思って手術室に入ったが最後。

生きて手術室を出られなかった、なんて話も聞いたことがある。

そんな経緯から、すっかり病院とは無縁の私だが。

ベッドが置いてあるんだから…多分、ここは病院…で、間違いないのだろう。