神に選ばれなかった者達 前編

…そして、数年後。

初めてのぞみと一緒に見た悪夢で。

スラム街の実家のアパートに転がった、母の遺体を前にして。

僕は、自らの罪を思い出した。

「…」

…のぞみは、これを僕に見せたくなかったのか。

…そうだよね。

何度も見たいものじゃない。…出来れば、二度と思い出したくなかったよ。

自分を生み、捨て、そしてのぞみを売り飛ばそうとした「敵」の死体なんて。

遺体となった母は、数匹の人面犬に取り囲まれ。

むしゃむしゃと、餌にされていた。

母の死体に夢中なのか、人面犬は僕とのぞみに興味がないようだった。

既に命はないはずなのに、犬達に食われている母のその目は。

こうなったのはお前のせいだと言わんばかりに、憎々しげに僕を睨んでいるように見えた。

現実で、僕に殺された後。

本物の母の死体も、こんな風にスラム街の野良犬の餌になったのだろうか。

知ったことじゃない。

憎む権利が、あんたにあるものか。

先に僕らを引き離そうとしたのは、そっちじゃないか。

あんたは、その報いを受けただけだ…。

「お…お兄ちゃん…」

「…のぞみ…」

母の死体を前に、のぞみは怯えて、ぶるぶると震えていた。

可哀想に。…怖かったよね。

「大丈夫だよ、のぞみ…。この人は、もう死んでるんだから」

二度と、僕らを脅かすようなことは起きない。

この悪夢の中でも、現実でも。

だから、もう大丈夫…。何もかも…。

…しかし。

「…違うの、お兄ちゃん…。そうじゃない…」

「…え?」

「お兄ちゃん…。私…私は…」

のぞみが何に怯えているのか、僕には分かっていなかった。

のぞみは何も、殺された母の死体に怯えているのではなかった。





…その時、母の遺体を餌にしていた人面犬が、ゆらり、と顔を上げてこちらを見た。

その目は、はっきりと僕を見据えていた。

「…!」

…その人面犬の顔。

その顔を、僕は知っていた。