神に選ばれなかった者達 前編

あの死神は、僕のしたことを「罪」と言った。

だけど僕は、それが罪だとは思っていなかった。

自分を産んだ親を殺したことに、罪の意識は感じなかったのか?

平和な世界で生まれた人なら、きっと僕にそう聞くだろう。

正直に言おう。

僕は今でも、母を殺したことに対して、罪の意識など一切感じていない。

冷酷だと思うだろうか?人でなしだと言うだろうか?

そう思いたいなら、勝手に思うと良い。

でもあの時、僕にとって母は、僕とのぞみの命を脅かす敵でしかなかった。

敵は殺さなければならない。

あの時は、ああするしかなかった。

何度考え直しても、あれ以外に僕とのぞみが一緒にいられる方法はなかった。

そもそも、母はのぞみを売り飛ばそうとしたのだ。

僕から、のぞみを奪おうとしたのだ。

僕は、自分の命を守ろうとしただけだ。

先に僕らの命を奪おうとしたのは、母の方なのだ。

だから僕が逆に母の命を奪っても、これは正当防衛だ。

そうだろう?

殺さなきゃ殺されるなら、誰だって殺すだろう。

相手が実の親だろうと、そんなことは関係無い。

大体あの人は、僕とのぞみに命を与える以外に、母親らしいことを一度でもしただろうか。

優しくしてもらった記憶なんてない。抱き締めてもらった記憶も。

のぞみに至っては、名前さえつけてやらなかったのに。

僕にとって母は、僕達兄妹を傷つける存在以外の何物でもなかった。

遅かれ早かれ、きっとああなる運命だったのだろう。

罪の意識よりも、僕は自分がやり遂げたという達成感でいっぱいだった。

僕がのぞみを守ったのだ。自分の手で。

自分が誇らしかった。

目の前に転がっている肉の塊には、最早何も感じなかった。

「…のぞみ、帰ろう」

血に塗れた手で、僕はのぞみの手を繋いだ。





…母の遺体がその後どうなったのか、僕は知らない。

カラスにでもつつかれたのか。

それとも、野良犬の餌になったのか。

どうでも良いし、今更知りたいとも思わない。

人身売買が当たり前のように横行しているスラム街では、こういう人殺しだって、さして珍しい光景ではなかった。

人一人が死ぬことくらい、あのスラム街では何でもないことなのだ。

従って、今日に至るまで、僕が罪に問われることもなかった。

こうして僕の家族は、のぞみだけになった。