神に選ばれなかった者達 前編

ギチャッ、って音がした。

「グチャッ」でも、「バキッ」でもない。

本当に、ギチャッって音がした。

渾身の力で振り下ろした鉄パイプが、母の頭の骨を砕き。

勢い余って、そのまま脳みそまで押し潰した音だった。

「…あ…あ゛…」

言葉なき呻きを漏らして、母はその場に、どさりと倒れた。

眼球が有り得ないくらいに飛び出して、鼻が陥没していた。

だから多分、一撃で絶命したのだろう。

でも、冷静さを失っていた僕は、一撃だけでは済ませなかった。

確実に息の根を止めようと、何度も何度も、鉄パイプを振り下ろした。

最初の四、五回までは、振り下ろす度に骨を砕く手応えがあったが。

何度も殴り続けるうちに、肉を押し潰す音しか聞こえなくなった。

「はぁ…。はぁ…」

夢中で、何度も殴り続けて。

ついに、錆びた鉄パイプがバキッ、と音を立てて折れた。

鉄パイプが使い物にならなくなってようやく、僕は手を止めた。

気がつくと、そこに母はいなくなっていた。

ただ、顔面が跡形もなく押し潰された、人間だった残骸が残っているだけだった。

誰が見ても、既に命を失っていた。

…終わった。

僕は勝った。やり遂げたのだ。

僕からのぞみを奪い取ろうとする「敵」を、この手で打ち倒した。

そして、もう二度とこの「敵」に、いつかのぞみを奪われるかもしれないと怯える必要もなくなった。

これで明日からも、のぞみと一緒にいられる。

心底安心した。ホッとした。

大切な宝物を、自分の手に取り戻したのだ。

こんなに嬉しいことがあるだろうか。

僕の顔は、安堵と喜びで綻んでいたに違いない。

「お…お兄ちゃん…」

傍で、すべてを見ていたのぞみが。

震えながら、僕を呼んだ。

「…のぞみ…」

「お兄ちゃん…。お母さん…お母さんが…」

…お母さん?

…あぁ、この肉の塊のことか。

怖かったんだろうね。でも、もう大丈夫。

僕は折れた鉄パイプを、地面に放り投げ。

代わりに、震えるのぞみを抱き締めた。

返り血にまみれた両手で。

のぞみは、びくっと身体を震わせた。

それでも僕は、しっかりとのぞみを抱き締めた。

もう誰にも取り上げさせない。誰にも奪わせないとばかりに。

「…大丈夫だよ、のぞみ」

「アレ」はもう、お母さんじゃない。

もう二度と、僕とのぞみを脅かすことはない。

「のぞみを傷つける悪いやつは…お兄ちゃんが、みんなやっつけてあげるからね…」

そう。それが例え、自分を産んだ親であっても。