神に選ばれなかった者達 前編

慌てて飛び起きると。

母さんが、横で一緒に寝ていたはずののぞみを抱き上げていた。

子供をあやす為に抱き上げているのではない。

まるで荷物を運ぶかのように、小脇に抱えていた。

ここ数日、のぞみはあまり体調が良くなかった。

それなのに、母さんはぐったりとしたのぞみの身体から、薄い毛布を引っ剥がした。

「母さん…!?」

こんな夜中に、一体何を。

僕は母の意図を計り兼ねて、母に尋ねた。

「のぞみに、何を…」

「ちっ…起きやがったか。騒がれると面倒だから、寝てる間に連れてこうと思ったのに…」

母さんはそんな僕を見て、口汚くそう罵った。

寝てる間に…。…連れて行く?

連れて行くって、のぞみを?

「のぞみを何処に連れて行くの…!?僕も…」

のぞみが何処かに行くなら、僕も一緒に行く。

それがどんなところであろうとも。

しかし。

「邪魔すんな!」

母さんは、容赦なく僕を突き飛ばした。

したたかに後頭部を床に打ち付けたが、そんなことはどうだって良かった。

のぞみ。のぞみが連れて行かれてしまう。

「あんたは無理だよ。先方は女の子が欲しいって言ってるんだ。はした金だったけど、タダよりはマシだからね」

「…!?」

母が何をしようとしているのか、その台詞でようやく理解した。

母さんは、のぞみを売ろうとしてるんだ。

人身売買は、当時も今も、僕らが住んでいるスラム街では珍しいことではない。

大抵、売り飛ばされるのは子供だ。

子供達は口減らしの為に、あるいは親の金欲しさの為に、僅かな値段で売られてしまう。

売られた子は、労働力として海外で死ぬまで働かされたり。

男女問わず、性風俗店で奴隷のように搾取されたりする。

だが、労働力として使われるなら、まだ幸運だろう。

まだ働くことも出来ない幼い子供…のぞみのような…子は。

裏社会の怪しげな病院に売られ、そこで死ぬまで血液を採取されたり。

臓器を残らず取り出して、それを闇のルートで取引きするのだと、そう聞いたことがある。

ただでさえ、日々の栄養失調と、ここ最近の体調不良で弱っている、今ののぞみが。

売られた先でどんな目に遭うのかを想像して、僕は戦慄した。

例え臓器を取り出されなくても、このスラム街で人買いに売られる以上、人並みに幸福な未来が待っているはずがなかった。

それだけは、断じて、断じて許せないことだった。