神に選ばれなかった者達 前編

夜が明けて朝になっても、俺はしばらく動けなかった。

ぼんやりと、自室の天井を見上げていた。

身体は、現実に戻ってきているのに。

頭の中は、まだ学校にいた。

異形のバケモノに襲われ、逃げ惑い、ひたすら苦痛に耐え続ける夢の中に。

現実では痛みなんて感じてないはずなのに、もう身体を動かしても痛くないはずなのに。

身体を動かすことが怖かった。叫ぶことも、呻くことも出来ない。

口の中に、まだ血の味が残っている気がした。

…あの後も、俺は必死に頑張ったのだ。

校舎の3階から飛び降りて、じわじわと肉体が機能を停止して。

その断末魔の苦しみが、ようやく終わったと思ったら。

また、イチからやり直し。

教室の中に戻されて、またゾンビに襲われて。

また逃げて、また追い詰められて、そしてまた何度も…。

何度も何度も何度も、朝が来るまで。目が覚めるまで。

何度も何度も何度も、死を繰り返す。

…あんなに何度も死んだのに、俺は何でまだ生きてるんだ?

俺の人生は、何でまだ続いてるんだ?

俺はあと何回死ねば、この終わらない悪夢のループから解放される?

ぼんやりとした頭で、そう考えていた。

…その時だった。

こんこん、と部屋の扉をノックする音がした。

「っ…!?」

一気に現実に引き戻されて、俺は急いで飛び起きた。

また来た。あのゾンビが。

逃げないと。ベランダの鍵を開けて、外に逃げて。

それから、それから…。

「おはよー、響也兄ちゃん。起きてるー?」

扉の向こうから聞こえてくる声が、俺には聞こえていなかった。

逃げなければ。頭の中はそれだけだった。

「開けるよー?」

ガチャっ、と扉を開けて入ってきたのは。

勿論、異形のゾンビ…。

…では、なかった。

「…え…?」

「…??どうした?」

…従兄弟の眞沙が、扉のところに立っていた。

…あれ?ゾンビは?

ゾンビが、眞沙の姿になってる…?

どうして?まさか、俺を油断させる為に…。

…いや、そんなことをする必要は。

「響也兄ちゃん?どうしたんだよ、そんな血相変えて…」

「…」

「…おーい?響也兄ちゃーん。大丈夫ー?」

眞沙は俺の顔の前で、ひらひらと手を振った。

…襲われなかった。噛みつかれなかった。

それどころか…普通に人の言葉を話して…。

…あ。

「…夢、じゃ…ない…?」

「もー…。まだ寝惚けてるのか?もう朝だよ」

苦笑気味に笑う眞沙は、ゾンビではなく、紛れもなく生身の人間だった。

その時俺は、ようやく自分が現実に帰ってきたことに気づいた。