神に選ばれなかった者達 前編

「はぁ…。はぁ…」

人面犬共の顔面を、残らず鉄パイプで砕いてやった。

昨日のうちに気づいていれば、もっと楽に倒せただろうに。

でも、今知ることが出来て良かったと思おう。

それでも、こちらもまったく無傷という訳にはいかなかった。

さすがに、数の暴力には勝てない。

何度か噛まれ、腕や足から血が流れていたが…幸い、致命傷ではなさそうだった。

…こんな傷、どうでも良い。

それより、のぞみを…のぞみを探さないと。

何処にいるんだろう。…よもや、あのアパートだろうか?

きっと、あそこにいるであろう「何か」に苦しめられているのだ。

すぐに行ってあげないと。

「のぞみ…。今、助けに…」

僕は、人面犬の血と脳みそと肉の欠片がべったりとついた鉄パイプを携え。

記憶に残る、あの懐かしい…そしておぞましいアパートを目指して走り出した。

…しかし。

「…!」

アパートが、目前に迫ったその時。

「きゃぁぁぁっ!」

聞き間違えるはずがない。

のぞみの悲鳴だった。

アパートの一室から、のぞみの悲鳴が響き渡った。

「のぞみっ…!」

僕は、急いでアパートの階段を駆け上がった。

「のぞみ、のぞみっ…!無事、」

「…!お兄ちゃん…!」

その、アパートの一室に辿り着くなり。

のぞみは、怯えた顔でこちらを振り向いた。

そして、僕もその場に凍りついた。

…そこで見た「モノ」に、思わず言葉を失った。

「見ちゃ、駄目…!お兄ちゃん、見ちゃ駄目よ…!」

急いで、のぞみが僕の視界を遮るようにしがみついてきたが。

残念ながらもう遅い。

僕は見てしまった。

…あぁ、そうか。成程。

昨日のぞみはこれを見たから、酷く覚えていたんだね。納得したよ。




それは、僕達兄弟が向き合わなければならないモノ。

アパートの中に、一人の死体が横たわっていた。

命を失った遺体の空虚な目が、こちらをじっと見つめていた。

…それは、母のものだった。

僕が、この鉄パイプで殴り殺された母の亡骸だった。