神に選ばれなかった者達 前編

僕は、のぞみと手を繋いで眠りについた。

そして、次に目が覚めた時。

「…!…ここは…」

僕はまた、過去の景色の中にいた。

僕が生まれ育ったスラム街…その一角に立っていた。

…血のついた、鉄パイプを手に持って。

「…」

僕は、その鉄パイプをゆっくりと見下ろした。

どうやら、やはり悪夢は一晩限りじゃないらしい。

のぞみと同じように…連日に渡って、同じ悪夢を…。

…はっ、そうだ。

「のぞみ…。のぞみ、何処!?」

手を繋いで眠ったはずなのに、夢の中で目が覚めると、そこにのぞみはいなかった。

僕は青ざめた。

「のぞみ…。のぞみーっ!!」

僕はのぞみの名前を叫び、必死に周囲を見渡した。

…すると。

「…っ…!お前ら、また…!」

僕の叫ぶ声に、釣られてきたとでも言うのか。

数匹の人面犬達が、僕の周囲に集まり始めていた。

…だが、それが何だと言うのか。

「…邪魔だよ、お前ら…」

僕はのぞみを。のぞみを守らなきゃいけないんだ。

お前達に食べられてる暇はないんだよ。

…僕と、のぞみの邪魔をするなら。

僕は、迫り来る犬達に、鉄パイプを振り上げた。

鉄パイプが肉を裂き、骨を砕く生々しい感触が伝わってきた。

…普通の人だったら、きっとこの感触の気味悪さに怯えるだろう。

でも、僕は初めてじゃなかった。

だから怖くなかった。怯えることもなかった。

だって必要なことだから。僕と、のぞみが生きる為に。

生きる為には、時に誰かを傷つけ、殺してでも抵抗しなければならないことを、僕は知っている。

「…!」

鉄パイプで殴られた人面犬は、その場に卒倒して倒れた。

顔面が完全に潰れ、割れた頭蓋骨から脳みそがはみ出していた。

それを見て、他の人面犬達も狼狽え、一歩、二歩と引き下がった。

…え?

これには、殴った僕の方がびっくりした。

昨日も、僕は何度か人面犬達と戦った。

こいつらは、胴体を殴っても、すぐに起き上がってまた襲ってきた。

だから僕は、何度も何度も、犬の胴体を鉄パイプで殴りつけて倒したのだ。

でも…今、こうして顔面を思いっきり殴りつけると。

意外なほどに、たった一発であっさりと絶命した。

そして、それを見て他の犬達も、明らかに怯えていた。

…こいつら、まさか。

…顔面が急所なのか?

悪夢二日目にして、思わぬ情報を入手。

知ってしまえば、あとは簡単だった。

弱点が判明したなら、そこを狙わない手はなかった。