神に選ばれなかった者達 前編

嘘じゃないよ。

紛れもない、僕の本心だ。

のぞみを守る為なら、僕は何だってする。

…そう、何だって。

だから、のぞみは何も心配することはないんだ。

「のぞみは死なないよ。だから…」

「…嫌なの…」

え?

「のぞみ?」

「そうじゃないの…。それじゃ嫌なの…。違うの…」

「…」

…今朝、悪夢から覚めた時も。

のぞみは酷く錯乱して、泣きじゃくりながら、僕に謝っていたね。

あの時は、酷い悪夢のあまり、取り乱しているだけかと思っていたけど…。

「嫌なの…。だって…あの場所は…」

「…あの場所は、何?」

「…!」

のぞみは、失言に気づいたかのようにハッとした。

昨夜、僕は自分の身を犠牲にして、時間稼ぎをした。

のぞみが逃げる時間稼ぎを。

その間にのぞみは、僕が指示した場所に逃げたはずだ。

僕らが昔住んでいた、生まれ育ったあのアパートに。

そこで…のぞみは、何を見たんだろう?

もしかして…今朝、悪夢から覚めた時にのぞみが錯乱していたのは。

そこで見た「何か」のせいなんだろうか?

「何がいたの?…のぞみ、一体何を見たの?」

「そ…れ、は…」

のぞみは青ざめて、言葉に詰まっていた。

…やっぱり、何かいたんだ。

何かを見てしまったんだね、のぞみは。

僕はのぞみを隠れさせるつもりで、あのアパートに逃げさせたのに…。

…どうやら、逆効果だったらしい。

「一体、あの場所で何を…」

「…違うの。お兄ちゃん…。…お兄ちゃん、私…。…ごめんなさい…」

「…」

「ごめんなさい…。…ごめんなさい…」

のぞみは、何を見たのかについて答えることはなかった。

代わりに、泣きそうな顔で何度も何度も、僕に謝った。

「…何で、のぞみが謝るの?」

「…だって…私…。…ごめん、なさい…」

「…良いんだよ、謝らなくて」

僕は、そっとのぞみの頭に手を置いた。

そして、優しく撫でてあげた。

分かったよ。

言いたくないのなら、言えないのなら、言わなくて良い。

のぞみを苦しませてまで、無理に聞き出そうとは思わない。

あのアパートにいるモノが何であろうと、僕のやるべきことは変わらない。

のぞみを守る。現実でも、悪夢でも。

それだけだ。

「大丈夫。何も心配しなくて大丈夫だから…」

「…お兄ちゃん…」

「さぁ、一緒に眠ろう。手を繋いでいてあげるからね。…何も怖くないから」

のぞみを怖がらせるもの、苦しませるものから全て、僕が守ってみせる。

だってのぞみは、僕の希望なんだから。

昔も、今もずっと。