神に選ばれなかった者達 前編

繰り返す。同じ夢を、何度も。

次にまた、教室の中に戻った時。

今度は、もう呆然としていることは出来なかった。

…逃げなくては。

ゾンビに慣れることは出来ても、痛みに慣れることは出来ない。

どうして良いか分からず、俺は教室の内側から内鍵を開けて、ベランダに飛び出した。

全速力で走って、教室から必死に離れようとした。

…しかし。

「くっ…!」

ベランダの突き当たりまでやって来て、俺はその場で立ち止まった。

…どうすれば良い?これから何処に逃げれば?

「ウガォォァァァ」

ゾンビが、容赦なく後ろから迫ってくる。

このまま突っ立っているだけでは、またゾンビに捕まるだけだ。

ならば…。

「っ…!」

俺はベランダの手すりに足をかけた。

こうなったら、最早形振り構わなかった。

ここは、校舎の3階。

飛び降りるのは危険極まりないが、それでもゾンビに食われて死ぬよりはマシだ。

飛び出した結果どうなるか、については考えていなかった。

現実だったら、3階のベランダから飛び降りたら、死ぬに決まっているが。

しかし、ここは夢の世界。

宙に飛び出したら、不思議な魔法がかかって、空を飛べるように…。

…なる、はずがなく。

夢の中でも、重力は現実と変わらなかった。

飛び出すなり、俺は真っ逆さまに校舎の3階から転落した。

ゾンビがベランダから身を乗り出して、落ちていった俺をじーっと見下ろしていた。

その顔は、まるで転落する俺を嘲笑っているかのように見えた。

落っこちている時間が、まるで永遠のようにゆっくりと感じられて。

「がっ…。…は…」

凄まじい衝撃と共に、身体が地面に叩きつけられた。

あまりの強烈な痛みに、思わず息が詰まった。

…でも、即死は出来なかった。

それは何も、不思議な力に守られたからではない。

落ちた場所が、丁度花壇の上だったからだ。

俺が現実で、トカゲを埋めた場所。

その柔らかい土が、落下する俺を受け止めてくれた。

コンクリートの部分に落っこちていたら、即死していただろう。

…即死…出来ていたら、どんなにか幸せだったか。

柔らかい土と言えども、3階から落ちた衝撃は、生易しいものではなかった。

したたかに打ち付けた額から、熱い液体…血…が流れ出て、地面に血が染み込んでいった。

「うっ…ぐ…」

何とか身体を動かそうと、必死にもがいた。

だが、身体を動かすことは出来なかった。

ほんの少しでも身体を起き上がらせようとしたら、打ち付けた背中に凄まじい痛みが走り、悶絶した。

医学の知識などまったくない俺でも、背骨が折れているのがはっきりと分かった。

…背中だけじゃない。

自分の片手が、有り得ない方向に捻じ曲がっているのが見えた。

痛みのあまり、即死出来ていたらどんなに良かったか、と思った。