神に選ばれなかった者達 前編

この日の夜は、これまでの悪夢より、ずっと酷い「悪夢」だった。

だってこれまでの悪夢は、死ねば、痛みから解放された。

確かに、それだって終わりない苦しみだ。

バケモノに殺されて、また時間が戻って。

またバケモノに襲われて殺されて、死んだらまた時間が戻って…。

そうやって永遠に繰り返す中で、自分が殺されない為にどうすれば良いか、考えることが出来た。

戦うことも、逃げることも、抗うことも出来た。

少なくとも、その機会が与えられた。例え僅かな時間であっても。

だからこそ俺は、繰り返されるゾンビとの死闘の末に、何とかゾンビ軍団をやり込める方法を探り当てることが出来たのだ。

悪夢に慈悲などないが、でも、攻略する為に最低限の余地を与えてくれていた。




…それなのに、これは何だ?

手術台の上で、激しい痛みのあまり気を失って。

ようやく命が終わって、心臓が止まって。

意識を完全に手放すことで、ようやく死によって解放された…。

…はずだったのに。

「…!?」

気がつくと俺は、再び手術台の上に寝かされていた。

当然、身体は動かせない。相変わらず声も出せない。

まだ死んでなかったのか、と思った。

まだ時間が巻き戻ってない。俺はまだ死んでなくて、手術が続いている…。

…いや、違う。

だって、目の前に黒衣人間達が居なくなっていた。

身体を苛む痛みも、リセットされていた。

終わったんだ。俺は確かに、さっき一度死んだ。

ちゃんと時間も巻き戻っている。

それなのに俺は、まださっきと同じ状態のまま。

再び、手術台の上に寝そべっていた。

…どうして。時間が巻き戻ったなら、病院の廊下に立ってなきゃおかしいじゃないか。

この手に、錐を握ってなきゃおかしいじゃないか。

何で。こんな…逃げる余地も、戦う余地もない状態で。

…すると。

「…!」

さっきと同じように、手術室に黒衣人間達が入ってきた。

そして、俺を取り囲み。

「ダウヨノウョジウョジハカイセ」

「ナタッナクシナトオクヤウヨ」

「ルキデガツュジュシデレコ」

…なんて言ってるのか分からない。

でも、さっきと同じ会話だということは分かった。

確かに、時間が巻き戻っている。

何で…。

…え?じゃあ、それって、つまり。

「ウヨシトルメジハ」

俺はこの悪夢の世界で、永遠に実験体にされるということ、なのか?





黒衣人間の持つメスが、ギラリと光るのが見えた。