神に選ばれなかった者達 前編

その日の夜。




 
気がつくと、俺は手術台の上に寝かされていた。

…。

…え?
 
多分この時俺は、物凄く間抜けな顔をしていたに違いない。

昨夜俺の悪夢は、病院の廊下に突っ立った状態から始まったはずだ。

それなのにこの日の夜、俺は気づいたら、手術台に寝かされていた。
 
煌々と光る手術台のハロゲンランプが、視界いっぱいに飛び込んできた。
 
それは、昨夜と全く同じ景色だった。

昨夜…人体実験の材料に使われた時と、同じ。

頭の中がパニック状態だった。

慌てても良いことなんて何も無い、そう分かっているはずなのに。

とにかく逃げなくてはならない。それだけは確かだするった。

だってこのままだったら、また昨日と同じように、

…しかし。

「…!?」

…身体が、動かなかった。

拘束されていない。昨日のように、ベルトで拘束されている訳ではなかった。

だから、身体を起こせばすぐにでも逃げられるはずだった。

それなのに、身体が動かない。

身体中、感覚は鋭敏に研ぎ澄まされているのに。

身体を動かそうと思っても、まるで反応しないのだ。

…どうして?

…それどころか。

「…!…!」

声を出そうと思っても、声を発することは出来なかった。

口を塞がれている訳でもないのに。

まるで、声を発するという機能が、身体から失われてしまったかのように。

…何でこんなことになってるんだ?

まだバケモノに捕まった訳じゃないのに。今夜はまだ、何もされてないはずなのに。

何で、こんな…。

…死を待つだけの状態、みたいな…。

…すると。

「…!」

黒衣人間達が、ぞろぞろと手術室に入ってきた。

顔を動かすことは出来なかったが、その足音と気配で分かった。

身体は動かせないのに、視力や聴力、それに全身の感覚だけは、不気味なほどに鋭敏だった。

ただの足音なのに、まるで耳元で飛び跳ねているかのように大きな音に感じられた。

視力はと言うと、黒衣人間が着ているニカブに染み付いた、赤黒い血の跡がくっきりと見えるほどだった。

自分の身体なのに、自分の身体じゃないたいだ。

俺は一体…こいつらに、何をされたんだ?