神に選ばれなかった者達 前編

…さっき嗅がされた薬は、即効性こそあれど、持続性はなかったらしく。

思っていた以上に、すぐに目が覚めた。

体感的には、恐らく10分ほども経っていない。

俺は、ぼんやりと目を開けた。

顔に黒いタオルか何かを被せられているようで、目を開けても何も見えなかった。

…まだ生きてる。

まだ、生かされているようだ。

…いつの間にか、俺はベッドに寝かされていた。

…いや、これはベッドなのか?

分からない。

身体を起こそうと、身を捩ったが。

しかし、身体は動かせなかった。

両手、両足首、首も、黒いベルトでガッチリと拘束されていた。

無理矢理引き千切るどころか、僅かに身動きすることさえ出来ない。

手に握っていた錐は、いつの間にか消えていた。

…袋のネズミって奴だな。

…すると。

突然、顔を覆っていた黒い布が取り除かれた。

途端、両目に飛び込んできた強烈な光に、思わず目を細めた。

…何だ、これは。

恐る恐る、少しずつ目を開くと…それは、見覚えがあるランプだった。

…そうだ、これ。さっきの…。

…手術室の、ハロゲンランプ。

「…タッイハニテガイザソイイノウゴツクヨドウョチ」

「ェエイナイタッモハニルスニサエナラカイシラズメハイザソイイノキイ」

「ウヨシトウラモテッアキツニンケッジ」

黒衣人間達が、俺の目の前で話しているのが聞こえた。

相変わらず、なんて言ってるのか全く分からないが。

きっと、楽しい話ではないのだろうな。

自分の運命よりも、俺はみらくのことが気になった。

…みらくも捕まったのだろうか。まだ大丈夫だろうか?

今も簡易クローゼットの中で、震えているのだろうか。

済まないことをしてしまったな。

どうか、お前は出て来ないでくれ。みらくだけでも…。

「カウヨシトルメジハ」

鋭利なメスを持った黒衣人間が、俺の前に迫った。

その隣に、助手のように立っている黒衣人間の手には、赤い液体が大量に入った、巨大な注射器。

ニカブのような衣装を着ているせいで、黒衣人間はその目しか見えない。

でも、その目だけで分かる。

こいつらは、俺を人間だとは思っていなかった。

それは、ただのモルモットを見る目だった。

そしてその瞬間、俺は自分の運命を悟ったのだった。

「…みらく、何を見ても、絶対に出てくるな」

俺に黒衣人間の言葉が分からないならば、黒衣人間の方も俺の言葉は分かるまい。

そう踏んで、俺はみらくに声をかけた。

当然だが、返事はなかった。