神に選ばれなかった者達 前編

ナースステーションの前を、何とか無事に通り過ぎた後。

俺は足音を立てないように、そっと壁沿いに進んだ。

そして。

「…!これか…?」

廊下の途中に、ボタンが付いた大きな扉を発見した。

エレベーター…これじゃないか?

普通エレベーターと言ったら、上下のボタンと、数字が書いてあるはずだが。

そのエレベーターのボタンには、何が書いてあるのかさっぱり分からなかった。

エレベーターだけは万国共通だと思ってたんだが、夢の中だと無関係らしいな。

全然分からないんだが、これは素人でも操作可能なのか…?

…物は試し。
 
俺は、ボタンを一つ押してみた。

そのまま、一分くらい待つ。

…全然、何も変わらない。

俺は違うボタンを押してしまったのだろうか。エレベーターが動いている様子もない。

押すべきボタンを間違えたのかと思って、今度は別のボタンを押した。

そのまま、今度は3分ほど待機する。

しかし、エレベーターは動かない。

…大きなカブかな?

別のボタンを押し、更に別のボタンを押しても、やはりエレベーターは動かない。

もしかして、これはエレベーターではなかったのだろうか。

改めて、そのエレベーター(?)を観察する。

その時、気付いた。

…違う。ボタンを押し間違えているのではない。

「…これ…カード認証か…?」

現実の病院だと、エレベーターは誰でも使える。

患者でも職員でも、見舞客でも。

だがこのエレベーターは、どうやら職員のパスカード、あるいはパスワードを入力しなければ、動かないらしい。

…ような気がする。推測だが。

さして驚くべきことではない。

この病院の病室は、患者を守る為と言うより、患者を閉じ込め、監禁する為に作られているように見える。

ならば、患者に勝手にエレベーターを使われては困るはずだ。

だからこそ、こうしてエレベーターの使用までもを制限し、患者の勝手な移動を阻止している。

…と、考えれば、一応辻褄は合う。

…成程。

つまり、パスカードを所持していない俺も、このエレベーターは使えないという訳だ。

フロアを移動する為には、エレベーター以外の方法を見つけるしかなさそうだ。

「…ということは…。…階段だな」

エレベーターが駄目なら、階段を使うしかない。

必ずあるはずだ。

階段なら、ボタンで操作する必要はない。パスカードも…多分必要ない。と、思う。

それに、エレベーターは追い詰められたら袋小路だが。

階段なら、上か下のどちらかに逃げることが出来るしな。

探してみる価値はあるだろう。