神に選ばれなかった者達 前編

全身を黒い衣装で固め、顔どころか、目しか出ていない。

ブルカ…いや、ニカブだったか…。あの衣装に似ている。

あるいは、忍者の黒子みたいな…。

他の病室は、あんなに厳重に施錠されているのに。

ここだけは、ドアが開けっ放しになっている。

広い会議室のような部屋で、ホワイトボードや、作業台、点滴スタンドなどが並べて置いてある。

ここ…もしかして、ナースステーションか?

ということは、あのニカブを着た人間達は、看護師なのか?

顔も髪も覆っているから、男なのか女なのか分からない。

いや、でも最近は男女関係なく、看護師を志す若者が増えてるんだっけ…。

…って、それは現実の話だ。夢の中だと関係ない。

性別なんてどちらでも良い。

看護師なのに黒い服を着ているのも、俺にはさっぱり分からない言語を話しているのも。

それに、人間にしてはやたらと背が高く大柄であることが、彼らをバケモノたらしめているような気がする。

…多分あいつらなんだろう。今回俺達が倒すべきバケモノは。

さっきの足音も、こいつら黒衣人間のものだったのか。

…ということは、俺が今ここに隠れているのが見つかったら。

…あまり、良い未来は見えなさそうだな。

ならば、気づかれていない今がチャンス、とも言える。

みらくから手榴弾を借りてきて、この中に投げ込めば…。

…少なくとも、ここにいる3人は始末出来るだろう。

だが、敵が3人だけとは限らない。

こんなに広い(予想)病院なんだから、職員が3人だけということはないだろう。

以前のゾンビ軍団みたいに、無数の黒衣人間が潜んでいるのかもしれない。

だったら、貴重な手榴弾を、ここで使うのは時期尚早。

動くのは、もう少し情報を集めた方が良いだろう。

しばし、ナースステーションの前で聞き耳を立てていたが。

なんて言っているのかさっぱり分からないし、それに俺は今、エレベーターを探している途中なのだ。

先を急ごうと思い、俺は身を屈めて、さながらこそ泥のようにナースステーションの前を通り過ぎた。

内心ヒヤヒヤしたが、ナース達はお喋りに夢中で、こちらに気づく様子はなかった。

…良かった。気づかれずに済んだ。

日頃から、息を潜めるようにして影を薄くして生きている甲斐があったな。

存在感のなさが、こんなところで役立つとは。

世の中、何が役に立つか分からないものだな。