神に選ばれなかった者達 前編

手術室を脱出した俺は。

真っ白な廊下に出て、周囲を見渡した。

…幸い、人影はないようだ。

それはそれで不気味だな…。静けさが気味悪い。

まぁ、明るい病院も逆に気持ち悪いけどな。

…さて、まずは何処を目指すべきか。

俺は窓に近寄って、鉄格子の向こうを覗いた。

…地面から遠い。

どうやら、ここは三階…か、四階くらいだろうか?

仮にこの鉄格子を外せたとしても、ここから飛び降りたら即死するだろうな。

…つまり、外に脱出するのは無理。

となると…やはり、上の階や下の階に移動するには、院内のエレベーターを使うしかなさそうだ。

エレベーター…。…あるんだろうか。

病院には必須だよな…。患者を運ぶ為にも…。

廊下の向こうまで見渡しても、誰かがいる気配はない。

だから『処刑場』メンバーは多分、さっきの俺達みたいに部屋の中に隠れているか。

あるいは、別の階にいるのだろう。

今のところ戦闘音(?)らしき物音は聞こえないから、仲間達もまだバケモノと接敵していないのだろうか…。

…誰も、死んでいなければ良いのだが。

俺は壁沿いに歩いて、エレベーターを探した。

普通病院の中には、エレベーターの位置や病室の場所が、初めて来た人でも分かりやすいように示してあるはずだ。

それなのに、この病院にはそれが全く無かった。

館内図も、館内標識も、一つもない。

非常に不便な病院。

お陰で、エレベーターを探すのに苦労している。

患者の為というよりは…職員の為の病院、のような…。

それに気になるのは、病院のドアが何処も、ぴっちりと閉められていることだった。

ドアが開けっ放し、または半開きになっている病室は一つもない。

必ずぴっちりと閉められていて、おまけに大きな鍵穴の錠前までついている。

「…」

…これって、おかしいよな?

何でドアの入り口に、錠前がつけられているんだ?

鍵を掛けるとしたら、普通、中からでは?

これじゃまるで、患者を病室に閉じ込めているかのような…。

…その時だった。

「…!」

通りかかった部屋の向こうから、人の話し声のようなものが聞こえてきた。

ゾンビ達は呻いたり叫んだりするばかりで、人の言葉を発しはしなかった。

だが、今聞こえてきたこの声は…まるで、人のものように聞こえた。

もしかして、『処刑場』メンバーがここに隠れているのか?

…と、思ったが。

「…スデウヨタレワラアガャシウュニンシ」

「カスデノモニナイタッイ」

「ルイテレサリョシニデス。イナハイダンモ」

…駄目だ。全然何語か分からない。

声のする方に、ジリジリとにじり寄っていくと。

その部屋だけは、部屋の扉が開けっ放しになっていた。

物陰からこっそり、部屋の中を覗くと。

そこには、全身真っ黒の服を着た人間が数人、集まっていた。

…何だ、あの服。