神に選ばれなかった者達 前編

廊下の突き当たりに、ひときわ大きな扉の部屋があった。

見るからに、病室のものとは違う。

それともVIP患者の為の病室か?…それは分からないが。

とにかく、もう引き返すことは出来ない。

例え中にいる何者かに殺されようとも、少しでも生存率を上げる為には、もうここに隠れるしかない。

俺は、引き戸の扉を勢い良く開いた。

…鍵がかかっていたら悲劇だったが。

幸い、扉はすぐに開いた。

素早く中に入って、扉を閉めた…のだが。

部屋の中には、既に「先客」がいた。

「…!」

「…!お前…」

部屋の中にいた「先客」は、俺の姿を見て目を見開いた。

「先客」…夜蛾みらくは、部屋の中央にある大きなベッドの下に、隠れるようにして蹲っていた。

先客は先客でも、バケモノでなかったことに安堵した。

「…みらくか…」

「う…嘘…。…響也くん…?」

みらくは怯えきった顔で、身を縮こませていた。

初めて会った時、ゾンビに殺されることに怯え、屋上で震えていたのと同じ顔だった。

「ここに居たのか。お前…」

「い、いやっ…!」

俺が近づこうとすると、みらくは慌てて腰を上げ。

そして、ウエストポーチに手を伸ばした。

え?

「こっ…来ないでっ…」

「…みらく?」

「き、君がほんとの響也くんか分からない…。ば、バケモノなのかも…」

…あー…。

…確かに、成程。その可能性は考えてなかったな。

他の姿に擬態するというのは、自然界の中でも往々にして使われる手段だからな。

仲間の姿に擬態し、安心して近づいてきたところをガブッ…。

というのも、考えられない話ではない。

つまり、今俺の目の前にいるみらくも、もしかしたらみらくの姿に擬態したバケモノである可能性もある訳で…。

…だが、この怯えた声や表情まで擬態出来るのだとしたら、あっぱれだな。

恐らく、目の前にいるこのみらくは、本物のみらくだろう。

そして今ここにいる俺も、本物だ。

…少なくとも自分では、本物だと思っている。

自分だと思っていたのに、いつの間にか本物とすり替わって別人になっていた…なんて、サスペンス小説でしか有り得ないはずだが。

ここは夢の中なのだから、どんな奇想天外な事態にもなり得る。

ともかく。

廊下の向こうから迫ってきているであろう足音から逃れる為にも、ここはみらくに落ち着いてもらうべきだろうな。

「…安心しろ、みらく。俺は本物だ」

…まぁ、偽物だったとしても、「私は偽物です」とは言わないだろうけどな。