神に選ばれなかった者達 前編

「…」

…さぁ、嘆くのはここまでだ。

どんなに終わりない苦しみに絶望したくても、悪夢から解放されることはない。

ならば、先のことなど考える必要はない。

今夜、死の苦しみから逃れる為に。

明日、現実を侵食されて苦しまずに済むように。

目の前にいる敵を、どうにかして倒さなくては。

…とはいえ、今、目の前に敵はいないが。

廊下の真ん中に立っていたら、嫌でも目立つ。

俺はまず、何処かに隠れようと思った。

消極的な行動だが、敵の正体や弱点が見えない状況で、攻勢に出て良いことがある訳がない。

まずは敵情視察。それから、少しずつ対策を考えるべきだ。

俺は、廊下をぐるりと一周見渡した。

…廊下の左右に、部屋の扉がいくつも連なっている。

部屋の入口には、とても読むことの出来ない文字で、何やら記号が記されていた。

牢屋…。いや、病室か?

次に窓を見る。

窓は固く施錠され、おまけに鉄格子が嵌められていた。

これは…逃走、あるいは転落防止用の鉄格子だろうな。

ということは、ここは病院だな。

これがもし牢屋だったなら、中の様子が見えるように、覗き窓等が設置されているはずだ。

「…病院、か…」

学校の次は、病院…。

…あまり馴染みのない場所だな。

病院に馴染みがあったら、それはそれで別に問題があるような気がするが…。

ということは、今度の敵は、この病室の中にいるのだろうか。

…それとも職員の方か?医者とか、看護師とか…。

今のところ、人や、生き物の影は見えない。

…他の『処刑場』メンバーは無事だろうか。

今何処に居るのだろう…そもそも、ここは何階だ?

入院病床がある病院なら、学校と同じく、それなりの大きさの建物だと思うが…。

もしかして、ここは…。

…その時。

「…!」

これ以上考える暇は与えない、とばかりに。

廊下の向こうから、コツコツという足音が近づいてきた。

…不味い。何処かに隠れなければ。

俺は急いで踵を返し、足音を立てないよう、早足で廊下を突き進んだ。

病室に隠れるのは駄目だ。

中に患者が寝ていたら、その患者に見つかる。

隠れるなら、患者も職員も、誰もいない部屋に隠れるべきだ。

果たして、そんな都合の良い場所があるだろうか?

「…!」

…あった。