神に選ばれなかった者達 前編

ふぁには、すぐさま厨房に背を向けて走り出した。

脱兎の如く。

見つかってしまったら、最早逃げる以外に選択肢はなかった。

敵が一人二人なら、何とか出来たかもしれない。

でも、厨房の中には数え切れないくらいの黒衣人間達がいた。

あの数を相手にするのは、さすがに無理だ。

三十六計逃げるに如かず、とにかく逃げて、隠れて、それから態勢を立て直して…と。

…そんなことを、させてもらえたら良かったんだけどなぁ。

「…っ!?」

凄まじい勢いで、背後から黒衣人間が追いかけてきた。

その速さは、人間のものではなかった。

足が速いとか、もうそんな次元じゃない。

こいつら、やっぱりバケモノなんだ、と思った。

普通の人間みたいな形(なり)をしているけど、やっぱり悪夢の世界のバケモノなんだ。

逃げることに関しては歴戦の勇者であるふぁにが、こんなにあっさりと捕まるなんて。

まぁ、そうだよなぁ。

普通の人間のはずがない…。ここは夢の中なのだから。

期待するのが間違いってもんだ。

「ぎっ…!」

ふぁには、背後から追い縋ってきた黒衣人間に、肩をがっしりと掴まれた。

普通の掴み方じゃない。

ただ、手のひらで肩を掴まれただけなのに。

まるで、巨大なペンチで肩を思いっきり挟まれたみたいな痛みだった。

半端じゃない握力。こいつはゴリラな何か?

あっという間に、バキッ、と音を立てて肩の骨が砕かれた。

痛みと衝撃のあまり、ふぁには無様に、その場に転倒した。

…あぁ、もう無理だなぁ。これは。

長年の経験で分かる。

死ぬしかない、って流れ。

更に、後ろから追いかけてきた黒衣人間達が、ふぁにの身体を捕まえた。

その拍子に、弓矢がふぁにの手からすり抜けて落ちた。

武器も奪われちゃった。はい、おしまい。

あとは、座してその時を待つだけ。

せめて、楽に殺してくれると良いなぁ、と思ったが。

…この恐ろしい悪夢で、一度として「楽な死」などという贅沢に恵まれたことはない。

ふぁには、黒衣人間達によって厨房に連れ込まれた。

あぁ、そうね…うんうん、分かる。

何となく、この後の自分の運命を察したよ。

すると、厨房の奥から。

黒いコック帽みたいなのを頭につけた、ひときわ大柄な黒衣人間がやって来た。

…何?あんた。料理長?

その悪趣味な人間ミックスジュース、気持ち悪いから給食に使うのはやめてくれないかな。