神に選ばれなかった者達 前編

咄嗟に、ふぁには廊下の影に身を隠した。

原則的に、この世界に現れるバケモノは、ふぁに達人間よりも遥かに強い。

だから、真正面から戦うより、身を隠して不意討ちに徹した方が良い。

これまでの戦いでの教訓である。

…え?卑怯?

知ったことか。勝った方が正義だ。

あわよくば射殺してやりたいところだが、まずは様子見といこう。

こんなことは考えたくないが、どうせ2、3回は殺されるんだろうし。

死ぬとしても、少しでも情報を集めてから死ぬぞ。

…すると、音の主が廊下の向こうから現れた。

何やら、金属製のカートのようなものを運んでいるようだ。

ゴロゴロという音の正体は、あれか。

かなり大きなカートである。

小学校の時、給食室から給食を運び出す時のカートに似てる。

…嫌なこと思い出させるんじゃねぇよ。

しかも、そのカート。

本当に給食を運ぶ為のカートなのか、食器のトレーらしきものが重ねて置いてある。

…やっぱりあれ、給食カートなのか?

給食を運んでる…ってことは、やっぱりここ、学校…?

と、考えていると。

「…!」

そのカートを押している人影が目に入って、思わず息を呑んだ。

驚きはしたけど、声を出さなかった自分、偉い。

カートを押しているのは、とにもかくにも人間だった。

ゾンビでも、半魚人でもない。ちゃんと、普通の人間…の、ように見えるけど。

定かではない。

というのも、その人物。

まるで黒子の衣装みたいに、全身真っ黒な服を着ていた。

顔は、かろうじて両目だけがあらわになっていたが。

それ以外の場所は、全部黒い布で覆われている。

目だけ出して…どっかの宗教の衣装みたいだな。

そんな、全身真っ黒人間が、給食カートを押している。

…随分悪趣味な割烹着だな。

給食当番の割烹着って言ったら、普通白だろうがよ。

黒って、カビの色じゃん。

食欲そそられねぇ…。…いや、ここ夢の世界だから、物を食べる必要はないんだが…。

あれって何て呼べば良いんだ?

黒い衣装は不気味だけど、これまでのようなバケモノ…とはまた違う。

背格好も普通の人間…よりは、ちょっと背が高いように見えるけど。

それでも普通の人間っぽいから、バケモノと呼ぶのは抵抗がある。

…よし。じゃああいつのこと、今から黒衣人間って呼ぼう。

出来ることなら、話が通じると有り難いのだが…。