神に選ばれなかった者達 前編

さて、海の中の夢を見たほたるは、まるでスキップでもするかのように、深海をぴょんぴょん歩き。

先程見つけた、巨大な岩の方に向かった。

やがて、巨大な岩の全貌が明らかになった。

「…!」

ほたるはそれを見て、思わず絶句した。

…こんなものを見るのは初めてだった。

海の底に、宮殿のような建物があったからだ。

それは、さながらお伽噺の深海都市だった。

ほとんどが朽ちて崩れ、藻が這っているが。

大小の古い家屋敷が、何処かしこに立ち並び。

最初巨大な岩だと思ったのは、深海にそびえる宮殿の一部だった。

「うわぁ…。…凄い…」

薄暗く、視界が効きづらいのが残念だった。

明るい場所で見たら、きっともっと荘厳で、美しい景色だっただろうに。

それでも、この不思議な深海都市を見られるだけで充分だった。

ここがあくまでも、夢の中だということは分かっている。

でも良いじゃないか。例え夢だとしても。

その美しい景色は、偽物ではない。確かに今、目の前にある。

それだけで充分だった。

…本当に、この夢が「それだけ」であれば。

美しい深海都市の景色に、見惚れていたほたる。

だが、幻想的な気分を味わえていたのは、その時までだった。

「…?」

背後から、ゴポポッ、と空気を吐くような音がした。

驚いて振り返ったが、そこには誰も、何もいない。

気の所為かと思って視線を戻したその瞬間、今度はもっと近くから。

ぞっとするような、恐ろしい気配を感じた。

「…っ…!?」

驚いて、もう一度振り返った時。

そこに現れたのは、異形のバケモノだった。

息をつく間もなく…いや、海の中だから元々息は出来てないんだけども…。

とにかく、一瞬の間にほたるは、そのバケモノに食われた。

ひょい、ぱく。ってな感じで。

目の前が真っ暗になったかと思うと、そこは既にバケモノの口の中だった。

次の瞬間、バケモノの鋭い牙が、ほたるの身体に突き刺さった。

「…!!」

ほたるは、悲鳴を上げることさえ叶わなかった。

牙で貫かれ、歯ですり潰され、噛み殺された。

まるで肉のように。ただの餌みたいに。

人間が豚や鶏を食べる時のように、ほたるはバケモノに食べられた。

その時味わった凄まじい痛みは、生まれて初めて味わう、死の痛みだった。