神に選ばれなかった者達 前編

それきりほたるは、いじめのことを誰にも言わなかった。

給食を雀の涙ほどしかもらえなくても、むしろ吐くまで食べさせられても。

葬式ごっこをされて、段ボール箱に詰め込まれてゴミのように捨てられても。

心を閉ざし、何も感じない、何も考えないようにして耐え続けた。

いつかきっと、許してもらえる。

今はこんな風に辛い思いをしているけれど、いつかきっと許してもらえる時が来る。

「もう良いよ」って、言ってもらえる日が。

そう信じるしかなかった。

そう信じなければ、自分の心を保てなかった。

不安定に、感情が揺れ動いていた。

…この時点で相当、ほたるの精神状態はヤバかった。

限界が近づいているのを、自分でもひしひしと感じていた。

それでもいつか、解放される日が来ると信じて耐え抜いた。

…三日連続で夕食を食べさせてもらえなくて、空きっ腹にしこたま水道水を詰め込んだ時も。

ボロボロに着古して、穴の空いた靴下を履いているのをクラスメイトにからかわれた時も。

遠足の日なのにお弁当を作ってもらえなくて、皆が遊びに行っている中、学校に取り残されてひたすら自習をしていた時も。

使い古してちびた鉛筆や消しゴムをいつまでも使って、落とし物入れに入っていた文房具を、こっそり拝借した時も。

担任の先生に自分のテストを見せびらかされ、その点数の低さをクラス中に笑われた時も。

クリスマスに、兄弟達がプレゼントをもらったり、クリスマスケーキを食べている中、寒さに震えながら押し入れに閉じ込められていた時も。

誕生日を誰からも忘れられ、誰にも「おめでとう」と言ってもらえなかった時も。

機嫌の悪かったパパに頭を強く殴られて、一晩中頭痛に苦しみ、一睡も出来なかった時も。

あまりにもお腹が空いて、こっそり生ゴミ入れから野菜くずを拾って、噛み締めるように食べた時も。

クラスメイトや家族から「お前なんて死んでしまえ」と言われても、何一つ言い返せず。

それどころか自分でも、「死んでしまった方が良いんじゃないか」って思ってしまった時も…。

何度も心が折れそうになりながら、それでもいつか、家族に戻れる日が来る。

いつか、この苦しみと痛みが、過去になる日が来る…。

…そう信じて、一生懸命、毎日を生き続けた。






…そんなある日のことだった。

ほたるが、生贄に選ばれたのは。