神に選ばれなかった者達 前編

…その晩だけで、一体何度死を繰り返しただろう。

長い長い夜がようやく明けて、気がつくと俺は、教室ではなく。

ベッドに横たわって、自分の部屋の天井を見上げていた。

…あぁ、ようやく終わったのだと思った。

長い痛みと苦しみが、ようやく…。

何度も食べられ、痛めつけられた身体は、何事もなかったようにすっかり戻っていた。

ただ、気分が酷く悪かった。

目の前に、ザザ、ザザ、とノイズが走ったような気がして、俺は慌てて頭を振った。

もう終わったんだ。あれは悪い夢だったんだ。

二日も続けてあんな酷い夢を見るなんて、不運だと思った。

…自分に必死に言い聞かせて、無理にでもそう思おうとしたのだ。

だって、そうでもしないと、あの悪夢に説明がつかないじゃないか。

のろのろと起き上がって、俺はぼうっと虚空を見つめた。

一晩中眠っていたはずなのに、あの悪夢のせいで、ちっとも寝た気がしない。

こんな日に学校に行って、またゴミステーションから机を拾ってきたり、哀れなトカゲを埋葬したりするのは御免だった。

が、今日は休日だったから、学校に行く必要はない。

それだけが、せめてもの不幸中の幸い、といったところだろうか。

かと言って、それで気分が晴れる訳ではないが…。

…すると、そこに。

「おーい。響也兄ちゃん。起きてるー?」

従兄弟の眞沙が、部屋の扉をノックしてきた。

途端、俺はびくりと身体を震わせた。

そのノックの音が、昨夜の悪夢と重なったからだ。

思わず身を竦ませたが。

「入るよー。…あれっ…」

「…」

扉を開けて入ってきたのは、ソンビではなく眞沙だった。

しかも、扉を殴り壊すんじゃなくて、ちゃんと開けて入ってきた。

「…どうしたんだよ?そんなオバケでも見るような目で…」

眞沙はびっくりして、俺を見つめていた。

…悪い。

お化けと言うか…。…ゾンビかと思って、怯えてた。

でも、ゾンビなはずがない、よな。

あれは夢なんだから。…ただの、悪い夢。

だから、もう思い出す必要はないのだ。

「…悪い。大丈夫だ…」

「本当に?…なんか、また顔色悪いけど…」

「本当に大丈夫だ」

俺は、再度そう言った。

言えるはずがないだろう。本当のことを。

まさか、二日も続けて、一晩中ゾンビに襲われる悪夢に苦しめられていたなんて。

「…それで?どうしたんだ。こんな朝から…。…部活は?」

今日は土曜日だから、学校は休みだが。

中学校のサッカー部に所属している眞沙は、土曜日でも部活の練習の為に登校するのが常だったのだ。

しかし。

「今日は休みなんだ。試験前だから」

「あぁ…そうか…」

そういえば、そんな時期なんだっけ…。

「だから、もし響也兄ちゃんが暇だったら、勉強を見てもらおうと思って」

「…」

「…駄目かな?」

…正直、それどころじゃない気分だが。

それをする為に、俺はこの家に置いてもらっているのだから。

断ることは出来なかった。