神に選ばれなかった者達 前編

「…」

ほたるは、母親が何か言ってくれるのを待った。

裁判の結果を待つ被告人みたいに。

…しかし、ママは何も言わなかった。

どれだけ待っても、ほたるに背を向けたまま、菜箸を動かしているだけだった。

「あ…。…あの…」

「…」

「あの…お、おかあ、さ、」

「…で?」

「え?」

ようやく何か言ってくれたと思ったら。

それは、あまりにも残酷な言葉だった。

「それが何だって言うの?いじめられたから…それがどうしたの?」

「え…い…いや、それ…は…」

その反応は予想外だったので、ほたるも言葉に窮した。

それが何だって言われても…。

…何なんだろうね?

自分の子が「実は学校でいじめられてるんだ」と打ち明けて。

「それが何なんだ」と逆に聞き返す親は、なかなかいないと思う。

「まさか、心配してもらえるとでも思ったの?可哀想に、って言ってもらえるとでも?」

「…!」

自分の甘っちょろい図星をつかれて、ほたるは硬直した。

…期待しちゃいけないのか。

自分が本当にピンチの時、親が助けてくれるんじゃないかって。

それさえ許されないのか。ほたるには。

ほたるのママは、嘲るようにこう言った。

「冗談じゃないわ…。言う訳ないでしょ、そんなこと」

その一言で、ほたるの希望は塵のように消えてしまった。

…それどころか。

「自分が蒔いた種でしょ。馬鹿なことするからそうなるのよ…。それに、あんたみたいな鈍臭くて性根の腐った人間は、誰だっていじめたくもなるわよ」

むしろ、ほたるではなく、いじめっ子に同情していた。

お前みたいな奴は、いじめられて当然と言わんばかりに。

「良い機会じゃないの。その腐った性根を叩き直してもらったら?…知ったことじゃないわ、あんたがどうなろうと」

「…」

ほたるは、何も言い返せなかった。

それきりほたるママも、ほたるに背を向けて、料理の続きを始めた。

もう、何も言ってくれなかった。

何も言われたくもなかった。

ほたるは、ふらふらとその場を立ち去った。

自分の心が壊れる音を、はっきりと聞いたような気がした。