神に選ばれなかった者達 前編

背後からほたるが呼ぶと、ママはちらりとこいらを一瞥した。

しかし。

「…」

ほたるの顔を見るなり、露骨に顔をしかめ。

それから、くるりと背中を向けてシカト。

お前と話すつもりはない、というママの強い意志を感じる。

母親の頑なな態度に、ほたるは一瞬怯んだ。

やっぱりやめようか、と思った。

しかし、ここで退く訳にはいかなかった。

「あ、あのっ…。…す、済みません…」

仮にも母親に向かって、「済みません」と声を掛けるとは。

他人行儀にも程がある。

しかし、ほたるが下手に出なければ、話を聞いてくれるはずがないことは分かっていた。

…反応はしてくれないが、声は聞こえているはずだ。

そう思って、ほたるは意を決して話し始めた。

「あの…そ、相談したいことが、あって…」

「…」

「その…実は…。…学校、で…」

「…」

「…あ、の…えっと…」

あまりにもママがスルーするから、言葉に詰まってしまうほたる。

心臓がばくばくと音を立てていた。

自分の母親と話をするのに、こんなに緊張するなんて。

怖かった。逃げ出したい気持ちだった。

それでも、今言わなければ、二度と言えないような気がした。

ほたるが人生で最初に見せた…、

…そして、人生で最後の勇気だった。

「く、クラスメイトに…その…。嫌な、ことを…いつも…されてて…」

蚊の泣くような声だったけど、ほたるは頑張って言った。

偉い、偉いぞと褒めてやりたい。

ほたるもやれば出来るじゃん、って。

「それが…その、凄く…辛くて…」

気づかないうちに、ほたるは涙ぐんでしまっていた。

これまで、いじめのことは誰にも言えなかった。

それを口にしてしまったら、認めてしまうような気がしたのだ。

自分が信じていた友情は全部偽物で、お金で繋がれた絆に過ぎなかったのだって。

お金がないなら、自分なんて何の価値もない存在なんだって…。

…でも、認めない訳にはいかなかった。

あまりにも惨めで、虚しくて…涙が溢れて止まらなかった。

ほたるは涙を拭いながら、必死に訴えた。

「もう…耐えられない…」

これが、掛け値なしの、ほたるの本音だった。

ちゃんと言った。自分の思いを、気持ちを、ちゃんと伝えた。

あとは、それに対してママがどんな反応をするかだ。