神に選ばれなかった者達 前編

こういうのを、本当の勇気って言うんだよな。

金を盗む為に振り絞る勇気なんて、それは勇気じゃない。

いじめのことは耐え難かった。いつか終わると信じたかったが、いつまで経っても終わる気配がなかった。

それどころか、ますます酷くなっていく。

もう耐えられなかった。限界だった。

誰かに助けて欲しくて、ほたるは家族にいじめのことを打ち明けることにした。

自分が酷くいじめられていることを知ったら、助けてくれるんじゃないかって。

助けてくれないにしても…少しは、優しい言葉をかけてくれるんじゃないかって、そう期待して。

一縷の希望を胸に、ほたるはそうっと、ママのもとに向かった。

家族の誰に相談するのか、ほたるは一晩中かけて考えた。

そして、相談するならママにしようと決めたのだ。

パパは怖かった。以前はあれほど優しくて、子供達に手を上げたことは一度もない人だったのに。

今でも、他の兄弟に対しては、以前と変わらぬ優しいパパのままだ。

でもほたるに対しては、パパは鬼のようだった。

姿を見れば口汚く罵られ、機嫌が悪ければ殴られることもしばしばだった。

パパに近寄ることさえ怖くて、出来る限りパパからは離れていた。

以前の優しいパパならいざ知らず、今のパパに相談事なんて出来なかった。

下手をしたら、話を聞く前にぶん殴られる可能性すらある。

それに反して、ママは優しかった。

どれくらい優しいかと言うと、毎日ほたるの為に、残飯を犬の餌入れに入れて出し。

無言で、汚いものでも見るかのような軽蔑の眼差しを向けてくるくらいには、優しかった。

あの事件があってからというもの、ママは一切、ほたると口を利かなかった。

ほたるの面倒なんて見たくないとばかりに。

それどころか、ほたるの顔さえ見たくないらしく。

ほたるの姿を見ると、露骨に嫌な顔をしてその場を立ち去る始末。

それでも、ママはパパみたいに、理由なく殴ってくることはなかったから。パパよりは優しいと言える。

優しい(当社比)。

だから、ママならまだ、ほたるに優しくしてくれるんじゃないかという希望があった。

放課後、門限に遅れないよう、急いで帰宅したほたるは。

ママの手が空くのを、辛抱強く待った。

そして、その瞬間がやって来た。




「あ…あの…」

ほたるは、おずおずと母親のもとに近寄った。

ママは、キッチンに立って夕食作りの真っ最中だった。

本当は、完全にママの手が空いて、暇そうにしている時に話しかけたかったのだが。

そんな都合の良い隙を待っていたら、そろそろパパが仕事から帰ってきてしまう。

今が、最後のチャンスだった。