神に選ばれなかった者達 前編

じゃあ、ほたる自身が給食係の時は?

その時なら、ほたるも自分自身で配膳出来るから、この時ばかりは安心して給食を食べられる…。 

…と思ったら、それは大きな間違いだ。

ほたるが給食係の時は、給食のおかずが全部余る、とかいう未曾有の事態が発生した。

というのも、いじめっ子の一人が、こう言い出したのだ。

「お前、汚いんだよ」

…と。

汚いって何が。給食係はちゃんと、配膳をする前に手洗い、消毒をして。

きちんと白い給食エプロンを付けて、おかずをよそっているのに。

「お前がよそったものなんか要らない」

と言って、いじめっ子はほたるがよそったおかずを拒否。

「…え…」

ほたる、お玉を持ったまま困惑。

すると、他のクラスメイトも我も我もと同意し始めた。

「俺も要らね。こいつ、おかずに唾混ぜてんだぜ」

「うわ、きったなー!」

「こいつがよそったものを食べたら、バイ菌が伝染るぞ!」

「くさっ!近寄るんじゃねーよ」

口々に言われて、ほたるは顔面蒼白で狼狽えた。

それにしても、「クサイ」っていう悪口ってさぁ、たった三文字で、なかなかの威力があるよな。

「馬鹿」とか、「クズ」とか言われるよりも。

「お前クサイ」って言われる方が、精神的にキツいものがある…ような気がする。

なんか、ベクトルの違う痛みがあるよな。

馬鹿とクズは自覚が出来るが、臭いのは自分ではなかなか自覚出来ないもんな。

自分の匂いって、自分じゃあんまり分からないだろ?

それと、バイ菌呼ばわり。

あれも結構酷いよな。

世に言う「菌回し」ってさ、いじめの中でもトップクラスに陰湿だと思う。

クサイって言葉もそうだけど、自分を汚いもの扱いされるのは、かなり堪える。

直接的な暴力と違って、身体に傷は残らないけど。

心に傷をつけるには、うってつけの手段である。

つーか、唾なんて混ぜてないっての。言いがかりやめろ。

結局、クラスメイト達は、ほたるが給食のおかずをよそうことを拒否。

ほたるが配膳を担当したおかずだけが、まるまる余ったまま返却されることになった。

勿体無いにも程がある。

たかがほたるをいじめる為だけに、そこまでするか、と。

…だが、ふぁにが言うのもなんだけど。

実はこの時、マジで、ほたるは臭かった。

というのも、家族として扱われなくなったほたるは、着ているものの洗濯もままならなかった。

当然、家族の衣類と一緒に洗濯してもらうことは出来ない。

家に洗濯機は勿論あるけども、ほたるが勝手に使う訳にはいかず。

第一、それまでろくに家事を手伝ったことがないほたるは、洗濯機の使い方を知らなかった。

情弱。

だから当然、洗濯は原始的な方法で行うことになる。

ほたるは川で洗濯を…というのは冗談だけども。

蛇口から水を出して、石鹸で手洗いするしかない。

脱水機能も乾燥機能もなく、手で雑巾を絞るみたいに、ぎゅーっと絞るだけ。

こんな方法じゃ、次第に衣類が臭ってくるのも当然だった。