神に選ばれなかった者達 前編

手榴弾が三つ、燃える床に転がった。

凄い。三人共、コントロール能力が半端じゃない。

三つ共、ほとんど同じ場所に落ちてる。

だが、感心している暇はなかった。

「逃げるよ、のぞみ!」

お兄ちゃんが、すぐさま私に手を差し伸べた。

私はその手を取って、一緒に走り出した。

一人で逃げればもっと速く、確実に無傷で逃げられるのに。

お兄ちゃんはいつだって、私を置いて一人で逃げることはしないのだ。

お兄ちゃんと私だけじゃなくて、他の皆も一様に走り出した。

「行くぞ、みらく」

「う、うん…」

怯えるみらくさんを、響也さんが手を引いて走らせた。

全速力で走って、調理実習室から離れて数メートル付近で。

背後から、聞いたこともないような凄まじい轟音が鳴り響いた。

手榴弾が炸裂する音だった。

昨日、屋外で試しに爆発させてみた時とは、比べ物にならない。

充分に逃げたところで、振り返ってみると。

そこには、信じられない光景が広がっていた。

調理実習室の窓が全部割れて、室内が赤く燃え上がっていた。

以前の放火作戦の時とは、火の勢いがまったく違う。

す、凄い…。これがみらくさんの手榴弾の威力。

「見えるか?ふぁに」

「あぁ…。ゾンビの奴ら、木っ端微塵になってながる」

これだけ離れても、目の良いふぁにさんには、調理実習室の中の様子が見えるらしい。

ふぁにさん曰く、手榴弾によって撒き散らされた破片で、ゾンビ達はズタズタにされているらしい。

手榴弾のみならず、爆破の衝撃によって割れた窓ガラスや、調理実習室の備品である食器類も割れ。

その破片もまた狂気となって、ゾンビ達に降り注いだようだ。

罠を張る場所を調理実習室に決めたのは、最初、地理的な要因によるものだったのだけど。

今から考えると、その選択は間違っていなかった。

どころか、調理実習室にして正解だったかも。

すると。

「きゃぁっ!」

ドカン、と大きな音がして、私は思わず耳を塞いだ。

どうやら、調理実習室が小爆発を起こしたらしい。

「な、何…?」

「あぁ。火災を広げる為に、ガス栓を全部開けっ放しにしておいた」

響也さんが、さらっととんでもないことを告げた。

い、いつの間にそんなことを。

あっという間に、轟々と燃え始める調理実習室。

どころか、このままじゃ校舎一帯が燃えてしまうんじゃ…。

「…これ、夢の中だから許されてるけど…。現実だったら…」

「…俺達、全員刑務所送りだな」

「…だよね…」

まぁ、現実だったら…ゾンビと戦うことはないけど…。

私達をこれまで散々苦しめたゾンビ達が、火に巻かれて燃えていった。

それはまるで、踊っているかのようにも見えた。

火だるまになりながら踊る、死のダンス。

他人事のように、私はそんな風に考えた。