神に選ばれなかった者達 前編

出鼻を挫かないでよ。お兄ちゃん。

「…ちょっと、お兄ちゃん。何するの」

「のぞみは安全な場所で見てて」

で、また蚊帳の外?

「駄目だよ…。お兄ちゃん、私だって…」

「それにねのぞみ、狙った場所に投げられるの?これ、結構重いよ」

「うっ…」

そ、それは。

体育の授業の時に…ちょっとだけやったことがある。…砲丸投げ。

いや、砲丸と手榴弾とは、また話が違うのだけど。

私の砲丸投げの記録…。下から数えた方が早かったな…。

…負けました。

今回ばかりは、完敗。

「…分かったよ。お兄ちゃんに任せる…」

「そうでしょう?それで良いんだよ」

何でドヤ顔なのよ。お兄ちゃん。

でも…それを言うなら、同じ女性である萌音さんだって…。

「萌音さん…。砲丸投げ、得意?」

「砲丸?20mくらい飛ばせるけど」

萌音さん、オリンピック目指せるのでは?

…そういうことなら、萌音さんに任せて問題なさそうだね。

「そろそろ配置に着こう」

響也さんが言い、私達は頷いて、窓を開けた。

そして、その窓から調理実習室の外に出た。

手榴弾は、この窓から室内に投げ込むのである。

「良いか、合図をしたらピンを抜いて、レバーを引きながら投げてくれ」

「うん、分かった」

「任せてくれ。…のぞみは、向こうで隠れてるんだよ」

…嫌だよ。私だってここで見てる。

足手まといだと言われても、私だって生贄の一人なんだから。

すると。

「誘き寄せたぞ」

囮任務を買って出てくれた李優さんが、翼を羽ばたかせながら、調理実習室に戻ってきた。

その後ろから。

李優さんに釣られたゾンビ達が、わらわらと群れを為して迫ってくる。

うわぁ…いっぱい…。

思わず、身が竦んでしまいそうになったが。

もうやるしかない。こうなったら。

「火をつけるぞ!」

ゾンビ達が、調理実習室に集まって来たところを目掛け。

李優さんがガスコンロの火を付け、クッキングペーパーを燃やし。

その火を、床に撒いた油に放った。

途調理実習室の放火、再び。

ここまでは、前回の放火作戦と大差ない。

違うのは、ここからだ。

床に火がつき、調理実習室が燃え始めたのを見届けてから。

李優さんは、急いで窓から飛び出して外に出た。

よし、これで全員が外に出た。

そして、それが合図だった。

「今だ!」

響也さんが叫び。

響也さん、萌音さん、お兄ちゃんの三人が。

手榴弾の安全ピンを外し、レバーを握りながら、燃える火に向かって投擲した。