神に選ばれなかった者達 前編

そうして、迎えた夜。

この日、いよいよ私達は、長きに渡った戦いに決着をつけることになる。







「…よし、それじゃ…用意は良いか?」

「萌音はいつでも良いよ」

「…俺もだ」

…私も、心の準備を決めていた。

私達はこの日、新たな作戦を決行することになっていた。

響也さんが立てた作戦は、以前失敗した放火作戦と、みらくさんの持つ手榴弾を掛け合わせたものとなっている。

作戦の場は、以前と同じ調理実習室。

ゾンビ達の目を掻い潜るようにして、私はお兄ちゃんと共に調理実習室に向かい。

まずは、前もそうしたように、床にサラダ油やごま油、クッキングペーパーなど。

燃えやすいであろうものを、ありったけ撒き散らした。

例え夢の中だと分かっていても、食べ物を粗末にする行為はどうしても慣れない。

でも、これも必要なことだから。

本意ではないけれど、油を撒き散らした。

前回と違うのは、床一面に撒くのではなく。

調理実習室の入り口付近に集中して、満遍なく撒くのではなく、水溜りみたいに一箇所に集中させたことだ。

この方が、範囲は狭いけど、よく燃えるんじゃないかって、響也さんが。

それからもう一つ違うこと。

それは、油をあらかじめ、フライパンで充分に熱してから床に撒いたことである。

少しでも温度が高くなるように。

「よし…。撒き終わったな。こっちはオーケーだ」

これで、現場の準備は完了した。

「それじゃ、俺がゾンビ共を誘導してくる」

「気を付けてね、李優」

「任せろ」

李優さんが、囮の為に調理実習室を出ていった。

…さぁ、そろそろ始まる。

「…みらく、手榴弾を」

響也さんが、みらくさんに声をかけた。

…しかし。

「…」

みらくさんは、緊張のあまりガチガチに固まってしまっていた。

これから始まる作戦に、心の準備が出来てないって感じだ。

…気持ちは分かるけど、でも受け入れなければならない。

夜を越える為には…。

「みらく、手榴弾を貸してくれ」

響也さんが改めて頼むと、ようやくみらくさんはハッとした。

「う、うん…」

「大丈夫だ、俺が投げるから。お前はやらなくて良い」

そう言って、響也さんはみらくさんのウエストポーチから、手榴弾を一つ取り出した。

…手榴弾の残りは、二つ。

そのうちの一つを、空き缶でも拾うかのように、ひょいっと掴み取ったのは。

「じゃあ、この一個は私が投げる」

この中で一番度胸がある、萌音さんだった。

…残りは一個。

「じ、じゃあ私が、残りの一個を…」

「それは駄目。お兄ちゃんが投げる」

今こそ私が名乗り出るべき、と思ったのに。

あっという間に、お兄ちゃんが残りの一個を奪い取った。