神に選ばれなかった者達 前編

別に恥ずかしくはなかった。

貧乏であることも、親がいないことも。

隙間風が吹いている部屋に住んでいることも、恥ずかしいとは思わなかった。

この気持ちを何と表現すれば良いのか、私には分からなかった。

「…お菓子、一緒に食べよっか」

お兄ちゃんは、さっきもらったばかりのお菓子を取り出して言った。

「…私はさっき食べたから、もういいよ」

「いいや、一緒に食べよう。お兄ちゃんは一人でお菓子を食べるのは嫌だよ。…ほら」

お兄ちゃんは、ちっちゃなビスケットの袋を開けた。

中に入っていた一つを自分で食べ、もう一つを私に差し出した。

「食べよう。ほら、のぞみも一緒に」

「…うん」

私は、お兄ちゃんが差し出したビスケットを一枚、受け取った。

ぱくりと口に入れると、やっぱり、甘くて美味しかった。

私達には、容易に手を出すことの出来ない味だった。

…不意に、ポロッ、と涙が溢れた。

「…のぞみ」

「…」

何で泣いてるのか、自分でも分からなかった。

すぐに目を拭いたけど、次から次へと、涙が溢れて止まらなかった。

ポロポロ、ポロポロと。

「…ごめんね、のぞみ…。不自由な思いばっかりさせて」

「違うの…。…お兄ちゃんは悪くない…」

何で泣くんだろう。別に悲しくない。羨ましくも、妬ましくもない。

それなのに、どうして涙が溢れて止まらないのか。

泣いちゃ駄目なのに。お兄ちゃんを心配させてしまう。

「うぅ…ひっく…うぇ…」

「…よしよし、のぞみ。大丈夫…。のぞみのことはお兄ちゃんが守るから…。大丈夫だからね…」

お兄ちゃんは私が泣き止むまで、ずっと抱き締めて、背中をさすってくれた。




この時の涙の訳を、私は未だに説明することが出来ない。

ただ唯一分かるのは、私が酷く幼稚で…世間知らずだったということだけだ。