神に選ばれなかった者達 前編

―――――――…ふと、気がつくと。

そこはもう、夢の中ではなかった。

さっきまで耳元で聞こえていたはずの、犬達がぐちゃぐちゃと肉を噛む音が。

今は、もう聞こえなかった。

全身を苛む恐ろしいほどの痛みも、嘘みたいに消えている。

…あぁ。

僕、また死んだのか…。

…でも、良い。やれるだけのことはやった。

あとは…のぞみが無事に逃げ延びてくれれば…。

「…!のぞみ!」

僕は、がばっと起き上がった。

こうしてはいられなかった。今すぐにでも、のぞみの傍に…。

「…あれっ…?」

起き上がるとそこは、見慣れたスラム街の路地裏ではなかった。

いつも住んでいる、アパートの一室だった。

…いつの間にか、夢から覚めて現実に戻ってきていたのだ。

その証拠に、外から朝の日差しが差し込んでいた。

…朝…。夢…。

信じられない気分だ。

こちらが現実で、さっきまでのが夢だったはずだったのに。

あまりにもリアルな夢だったせいで、どちらが現実なのか分からない。

でも…そうだ。あれは夢なんだ…。

夢…の、はずだったのに…。

「うっ…!?」

不意に、視界の端に黒いモヤのようなものが映った。

な…何なんだ、今のは…?

この時の僕は知らなかったけど、これは夢の中で殺されたことによる、現実への「侵食」だった。

でも、そんなことはまだ知らない、この時の僕は。

何が起こっているのかさっぱり分からず、ただただ不快で、不気味だった。

何一つ確かなことなんてないけれど、僕には唯一、確かに守らなければならないものがある。

「…!のぞみ…」

そう、のぞみのことだ。

僕が目を覚ましたなら、のぞみも同じように目を覚ますはず。

慌てて横を見ると、同じ布団で寝ていたはずののぞみは、相変わらず目を閉じていた。

…まだ眠っているのか。

その顔は穏やかで、普段の願いと変わらないように見える。

しかし、のぞみは僕と同じ夢を見ていた。

ならばのぞみは、まだ…。あの悪夢の中に…。

「のぞみ…のぞみ!起きるんだ、もう夢から覚め…」

「…に…い、ちゃん…。ご、め…なさ…」

「のぞみ!」

のぞみは寝言で、僕のことを呼んでいた。

僕はのぞみの肩を、強く揺すった。

「起きるんだ、のぞみ!」

「…う…?」

ようやく、のぞみは億劫そうに目を開けた。