「…のぞみ、お兄ちゃんが時間を稼ぐから、その間に逃げるんだ」
「…えっ…!?」
暗くて狭いゴミ箱の中で、僕は囁くようにしてのぞみに告げた。
「な、何言ってるの、お兄ちゃん…」
「逃げるんだ。このままじゃ見つかる」
こうしている間にも、人面犬達は少しずつ少しずつ、こちらに近づいてきていた。
速く決断しなければ、二人共同じ運命を辿ることになる。
それだけは許さない。
「逃げるなら…逃げるなら、お兄ちゃんも一緒だよ。私だけなんて…」
「それは無理だ…。お兄ちゃんは怪我をしているし、二人で逃げたら追いつかれる」
仮に怪我をしていなかったとしても、走って逃げるのは無理だ。
さっきやったけど、駄目だった。
「だから、ここでお兄ちゃんが時間稼ぎをする。その間にのぞみだけでも…」
「駄目だよ…!お兄ちゃん、それじゃあ死んじゃう…!」
…そうだね。死んじゃうだろうね。
さっき味わったあの傷みを、再び味わうことになる。
そう思うと、僕だって臆する気持ちがない訳ではない。
痛いのは嫌だよ。耐えられないほどに。
…だけど、のぞみの痛みに比べたら、そんなものは何でもない。
「…分かってるよ」
「だ、だったら…!」
「でも、駄目。ここにいたらのぞみも死んでしまうんだよ。のぞみ、痛い思いをするのは嫌でしょう?」
「それは…」
のぞみはこの数日、何度もあの犬達に殺されてきた。
僕はまだたった3回だけど、のぞみはもう…数え切れないほど、何回も殺されてきた。
だから、もうのぞみに痛い思いはさせない。
今度は僕の番だ。
「い、いや、だよ…。痛いのは嫌…」
「そうでしょう?だから…」
「でも…お兄ちゃんが痛い思いをするのも嫌だよ…」
「…のぞみ…」
…優しいね、君は。
本当なら、すぐにでも逃げ出したいだろうに。
お兄ちゃんのこと気遣ってくれて、ありがとう。
「お兄ちゃんがここで…死ぬなら、私も一緒に…」
のぞみが言うことなら…のぞみが望むことなら…僕は何でも聞き入れる。
…だけど、今回ばかりは。
「…それは駄目」
「…!何で…」
「二人共助かる方法がないなら、それも仕方ないかもしれないけど…。今は違う。お兄ちゃんが犠牲になれば、のぞみは助かる可能性があるんだ」
なんて素晴らしいことだろう。
僕の犠牲で、のぞみを守れるなんて。
僕ごときの安い命で、かけがえのないのぞみの命を守れるなんて。
だったら、死の痛みが何だと言うのだろう。
「のぞみを守る為なら、お兄ちゃんは何度死んだって構わないよ」
「お…お兄ちゃん…」
「…さぁ、のぞみ。行くんだ」
僕は、血にまみれた鉄パイプを強く握り締めた。
「…えっ…!?」
暗くて狭いゴミ箱の中で、僕は囁くようにしてのぞみに告げた。
「な、何言ってるの、お兄ちゃん…」
「逃げるんだ。このままじゃ見つかる」
こうしている間にも、人面犬達は少しずつ少しずつ、こちらに近づいてきていた。
速く決断しなければ、二人共同じ運命を辿ることになる。
それだけは許さない。
「逃げるなら…逃げるなら、お兄ちゃんも一緒だよ。私だけなんて…」
「それは無理だ…。お兄ちゃんは怪我をしているし、二人で逃げたら追いつかれる」
仮に怪我をしていなかったとしても、走って逃げるのは無理だ。
さっきやったけど、駄目だった。
「だから、ここでお兄ちゃんが時間稼ぎをする。その間にのぞみだけでも…」
「駄目だよ…!お兄ちゃん、それじゃあ死んじゃう…!」
…そうだね。死んじゃうだろうね。
さっき味わったあの傷みを、再び味わうことになる。
そう思うと、僕だって臆する気持ちがない訳ではない。
痛いのは嫌だよ。耐えられないほどに。
…だけど、のぞみの痛みに比べたら、そんなものは何でもない。
「…分かってるよ」
「だ、だったら…!」
「でも、駄目。ここにいたらのぞみも死んでしまうんだよ。のぞみ、痛い思いをするのは嫌でしょう?」
「それは…」
のぞみはこの数日、何度もあの犬達に殺されてきた。
僕はまだたった3回だけど、のぞみはもう…数え切れないほど、何回も殺されてきた。
だから、もうのぞみに痛い思いはさせない。
今度は僕の番だ。
「い、いや、だよ…。痛いのは嫌…」
「そうでしょう?だから…」
「でも…お兄ちゃんが痛い思いをするのも嫌だよ…」
「…のぞみ…」
…優しいね、君は。
本当なら、すぐにでも逃げ出したいだろうに。
お兄ちゃんのこと気遣ってくれて、ありがとう。
「お兄ちゃんがここで…死ぬなら、私も一緒に…」
のぞみが言うことなら…のぞみが望むことなら…僕は何でも聞き入れる。
…だけど、今回ばかりは。
「…それは駄目」
「…!何で…」
「二人共助かる方法がないなら、それも仕方ないかもしれないけど…。今は違う。お兄ちゃんが犠牲になれば、のぞみは助かる可能性があるんだ」
なんて素晴らしいことだろう。
僕の犠牲で、のぞみを守れるなんて。
僕ごときの安い命で、かけがえのないのぞみの命を守れるなんて。
だったら、死の痛みが何だと言うのだろう。
「のぞみを守る為なら、お兄ちゃんは何度死んだって構わないよ」
「お…お兄ちゃん…」
「…さぁ、のぞみ。行くんだ」
僕は、血にまみれた鉄パイプを強く握り締めた。


