神に選ばれなかった者達 前編

「…!お兄ちゃん…」

「しっ…」

僕は人差し指を立てて、のぞみを黙らせ。

それから、自らもゴミ収集庫の中に飛び込み、蓋を閉めた。

狭苦しく、ゴミの臭いが染み付いたその空間に、のぞみと抱き合って身を伏せた。

ゴミの汚れが全身に付着したが、そんなことは構っていられない。
 
ゴミ箱の割れ目に顔を押し付けるようにして、外の様子を伺うと。

低い唸り声をあげる人面犬達が、三匹ほどうろついているのが見えた。

…まだ、いるのか。

「…お、お兄ちゃん…」

僕が息を呑むのを見て、のぞみが震え出した。

「…大丈夫、静かにしててね」

僕はのぞみの頭を撫でて、宥めた。

笑顔を見せてはいたが、頭の中はパニックに近い状態だった。

…さっき、確かに倒したはずだ。

鉄パイプで、何度も殴りつけて殺した。

もしかして再生したっていうのか?…いや…。

割れ目から、食い入るように様子を伺ったところ。

多分、あいつらはさっきのとは別個体だ。

毛並みの色や、大きさが違っている。

一体何匹居るんだ…。

人の顔をした犬達は、まるで餌を探すように、鼻をひくひくさせながら周囲を伺っている。

このままのぞみと二人、息を潜めていれば難を逃れられるだろうか。

そう思って、僕らは微動だにせず、犬達が去るのを待った。

しかし、事はそう上手く運ばない。

人面犬達とゴミ収集庫の距離は、次第に近くなってきていた。

…間違いない。あいつら、僕達を探してるんだ。

人間の匂いや、血の匂いを辿るのだろうか?

だとしたら…。…不味い。

ここに僕とのぞみがいるのがバレたら、あいつらは…。

…それだけは、絶対に避けなければならなかった。

蓋付きのゴミ収集庫とはいえ、蓋に鍵はついておらず、おまけに壊れている。

何回か体当りすれば、こんなボロボロのゴミ箱はあっという間に壊れてしまうだろう。

例え二人で全速力で逃げたとしても、あいつらの方が遥かに足が速いことは、既に分かっている。

ましてや今の僕は手負いで、しかものぞみを連れている。

走って逃げるなんて、とてもじゃないけど無理だ。

でもこのまま隠れていても、遠からず見つかる。

その後待ち受けているものを、想像したのだろう。

のぞみは、声を出さずにぶるぶると震えていた。

…可哀想に。怖いよね。

選択肢は一つしかない。

こうなったら、のぞみだけでも…。

…その為には、自分の身がどうなっても構わないつもりだった。