神に選ばれなかった者達 前編

のぞみは、僕の怪我のことを気にしているようだったが。

僕は、そんなことどうだって良かった。

「この夢なの?のぞみ」

「…え…?」

「のぞみが見てた悪夢って、これ?」

「…うん、そう…」 

戸惑いながら、のぞみは頷いた。

…そうだったのか。

こんなリアルな夢を…毎晩のように。

そして、殺される痛みも…。

…さぞ辛かったことだろう。痛かったことだろう。

「…ごめんね、のぞみ」

「…どうして、お兄ちゃんが謝るの?」

…謝るに決まってるよ。

こんな苦しみだとは知らなかった。

「のぞみが…こんなに痛い思いしていると知らなくて、ただの夢なんだから気にするな…なんて、無神経なことを言ってしまって…」

「…そんな…」

これはただの夢じゃない。

ほんの3回ほど殺されただけだけど、確かに分かる。

これは普通じゃない。異常だ。

こんな夢…。…いや、これは本当に夢なのか…?

「お兄ちゃんは悪くないよ…。だって…助けに来てくれたじゃない」

「…のぞみ…」

「来てくれて嬉しかった。ありがとう…お兄ちゃん」

その一言で。

さっきまで味わった痛みも、苦しみも、全部霧のように消えてしまうのだから不思議だ。

「でも…どうやって来たの?お兄ちゃん…」

「…さぁ…どうやったんだろうね…?」

「えぇ…?」

ごめん。お兄ちゃんもよく分からないんだ。

お兄ちゃんはただ、信じてもいない神様に祈っただけだ。

のぞみと同じ夢を見させてくださいって。

そうしたら、神様が願いを叶えてくれた。

神様が僕の願いを聞いてくれるなんて、初めてじゃないか?

「のぞみが苦しみを味わっているなら、僕にも同じ苦しみを…って、そう願っただけだよ」

ありがとう、神様。

神様じゃなくて、天使様かもしれないけど。何でも良いや。

同じ夢を見られたのだから。のぞみと同じ夢を。

「…!それじゃあ、お兄ちゃんはやっぱり、私のせいで…」

「のぞみのせいじゃない。これは、お兄ちゃんが自分で望んだことなんだから」

断じて、のぞみのせいなんかじゃないよだ。

それだけは譲らない。

「大丈夫、傍に居るよ、のぞみ。お兄ちゃんはいつまでも、のぞみの傍に…」

そう言って、僕はのぞみの頭を撫でようとした。

…しかし、その次の瞬間、僕とのぞみは同時に凍りついた。

「グルルル…」という、犬の呻き声が聞こえてきたからだ。