神に選ばれなかった者達 前編

自分の痛みなんてどうでも良かった。

ただ、のぞみが傍にいる。僕のすぐ傍に。

それだけで、どんな薬よりも安心した。

「さぁ、もう泣かないで。のぞみ」

「…うん…」

のぞみはようやく、涙に濡れた両目を拭った。

「怪我はない?何処か痛くない?」

「うん…。大丈夫…」

…良かった。

のぞみが怪我をしていたら、どうしようかと思った。

すると、のぞみはしゃくり上げながら打ち明けた。

「いつもと違うの…」

「…違う?」

「うん…。いつもだったら、夢の中に来たらすぐに、犬達が襲ってくるんだけど…」

「…」

「今日はいなくて…。とにかく逃げようって思って…ここに…」

「そうだったんだ…」

それって、もしかして…。

僕が、さっき倒した人面犬のこと…だろうか?

「怖かったの。いつ、また犬達が襲ってくるかって…怖くて、ここで…」

「そっか…。よく頑張ったね、のぞみ。偉いよ」

姿を隠したのは正解だった。

お陰で、のぞみは襲われずに済んだ。

のぞみに痛い思いをさせずに済んだ。それだけで僕にとっては大収穫だ。

ということは、やっぱり。

この数日、のぞみを毎晩襲って食い殺していたのは、さっき僕が倒した人面犬だったんだ。

あいつら、もっとぶん殴ってやれば良かった。

「のぞみが無事で良かった…」

「…。…?お兄ちゃん、それ…」

「ん?」

その時になって、ようやく。

のぞみは、僕の服が鮮血に染まっていることに気づいて、真っ青になった。

「お兄ちゃん…!怪我してるの?」

「え?あぁ…ちょっとね」

ここに来るまでに、その犬達と戦って…。

「大丈夫だよ。人面犬達は倒したからね」

「…!もしかして、あの犬達と戦って怪我をしたの?」

「うん…。ちょっと手こずっちゃってね。でも、のぞみが気にすることじゃな、」

「どうしよう…。お兄ちゃん、私のせいで怪我を…」

何だって?

「それは違うよ、のぞみ。のぞみのせいじゃない」

お兄ちゃんがノロマだったから、そのせいで怪我をしただけだ。

「だけど…私、さっきお兄ちゃんを突き飛ばしちゃって…」

あぁ…あれは、ちょっと痛かったけど。
 
でも、のぞみは悪くない。悪気があった訳じゃないんだから。

あれは不可抗力というものだ。

「大丈夫。このくらい…のぞみを守る為なら、安いものだよ」

強がりではなく、これは本心だった。

結果的にのぞみを守ることが出来たのだから、それ以上大切なことはない。