神に選ばれなかった者達 前編

「…え」

気づくと、僕はまた見覚えのあるスラム街の一角に立っていた。
 
「…っ!」

僕は急いで、自分の身体を見下ろした。

さっきまで食いつかれていた腕も、足も、何もかももとに戻っていた。

まるで何事もなかったように。

…嘘、だろう?

身体は元通りなのに、痛みは生々しく記憶に残っていた。

人面犬達の、あの獣臭い匂いさえも。

それなのに…。

「どう…なってるんだ?僕は、今、死…」

死んだはずなのに。どうしてまだ、生きて。

すると。

背後に気配がして、「グルルルル…」と唸る声が聞こえた。

「ひっ…!」

さっきと同じだった。

あの異様なバケモノ達が。ついさっきまで、僕の身体を貪っていた人面犬達が。

またしても、僕に飛びかからんと唸りをあげているではないか。

これじゃ、まるで時間を巻き戻したかのようだ。

もしこれが、本当にさっきと同じ夢なら。

次の瞬間、僕はまた…。

「グギャッ!!」

さっきと同じだ。

人面犬が一匹、僕に向かって飛びかかってきた。

僕はすんでのところで、それを躱した。

咄嗟にそんな芸当が出来たのは、長年スラム街で暮らして。

いざという時、身の危険を回避する無意識の癖がついていたからに他ならない。

だが、そんな幸運は二度続かなかった。

あの当時、まだ子供で、非力だった僕に、それ以上のことは出来なかった。

咄嗟に身を躱したことで、体勢を崩した僕は。

すぐに立ち上がれず、一瞬隙を見せてしまった。

人面犬達は、その隙を見逃してはくれなかった。

思えば、今戦っているゾンビ達は、数こそ多くて厄介だけれど。

一匹ごとの強さは、この時の人面犬の方が遥かに上だった。

「ギシャァァッ!」

「ぐっ…!」

一度躱されたことに対する恨み、とばかりに。

人面犬の牙が、僕の右肩に食い込んだ。

バリッと嫌な音がして、そのまま肩が外れた。

肩を食いつかれ、歪な歯型がくっきりと肉に残っているのが見えた。

「あ…あぁ…」

痛みのあまり、その場にふらついた。

僕の右腕はもう、僅かな繊維数本だけで繋がっていた。

ぷらぷらと右左に揺れる右腕が、妙に滑稽に見えた。

立ち上がって、走って逃げれば良かったのかもしれない。

しかし、今の僕にそんなことは出来なかった。

そのまま、また人面犬達の餌にされる以外に、どうすることも出来なかったのだ。