神に選ばれなかった者達 前編

そう…ここは夢。

恐れる必要なんてない。夢なのだから。

いくらリアルでも、現実のように意識がはっきりとしていても…。

ここは、あくまで夢の中。

バケモノに…人面犬に襲われたって、夢の中なら何も怖がるとなんて、

…しかし、この「夢」は、ただの夢ではなかった。

「ギジャァァァァッ!」

僕の真正面にいた人面犬が一匹、僕に向かって飛びかかってきた。

それを合図に、次々と人面犬達が、群れを為して噛みついてくるではないか。

「…ぎっ…!」

腕に齧りつかれた、その時の痛み。

それば、耐え難いほどの痛みだった。

生まれてからずっと、母の暴力に晒され。路地裏の暴力に晒され。

痛みには、人並み以上に強いはずだった。

それでも、これほどの痛みは生まれて初めてだった。

鋭い牙が、腕や、足や、胸や、腹の肉に食らいついた。

犬達は、まるで戦利品を互いに取り合うかのように、次々と噛みついてきた。

噛みつき、そして肉を引き裂いた。

これは…これは、夢だ。

夢のはずだ…だから、この痛みは偽物だ。現実じゃない…。

…そのはずなのに。

現実よりもずっと、この世界は残酷だった。

凄まじい痛みが全身を襲った。

逃げたかったけど、自分の体重よりも重い人面犬達に食いつかれていては。

逃げようにも、どうやったって逃げられなかった。

そのまま、自分の身体がただの肉として食べられるのを、じっと耐えるしかなかった。

…ぐちゃぐちゃという、肉を噛む咀嚼音が耳に届いた。

叫ぶことも、悲鳴を上げることも出来なかった。

ただ、掠れたような声で小さく呟いた。

「…のぞみ…」

…その囁きが、誰かに届くことはなかった。




やがて、そのまま意識が途切れた。



…これが、記念すべき。

夢の中での、初めての死だった。