神に選ばれなかった者達 前編

妹が生まれた時のことを、いそらはよく覚えている。

突然母が苦しみ始め、布団の上で呻いていた。

もしかして、母はこのまま死ぬのかもしれない。

空音いそらはそう思った。

しかし、怖いとは思わなかった。寂しい、とも。

今だって、半ば一人で生きているようなものなのだ。

母親がいなくなったからって、それが何だと言うのだろう。

苦しむ母親を、じっと見つめていると。

やがて母は、赤ん坊を産み落とした。

その赤ん坊が、小さな小さな産声をあげた。

その時初めて、いそらは母に近寄った。

母を労う為ではない。

生まれた子の顔を見たかっただけだ。

しわくちゃの顔で、かすかな産声をあげる小さな赤ん坊。

それが、空音のぞみだった。

その赤ん坊を見た瞬間、唐突に、いそらの中に使命感が生まれた。
 
何故そんな風に思ったのか、いそら自身も分からなかった。

しかし、この子を守れるのは自分だけだ、という強い確信があった。

事実母は、赤ん坊を産み落とすなり。

上体を起こして、赤ん坊に手を伸ばした。

そして、あろうことか、その柔らかな首を絞めて殺そうとした。

途端、いそらは母の手に噛みついた。

悲鳴を上げて手を離した隙に、いそらは赤ん坊を抱きかかえ。

すぐさま、家の外に逃げた。

これから先、何度もいそらは妹の命を守ることになる。

が、これが記念すべき最初の一回目だった。

こうして空音のぞみは、生まれた瞬間母親に殺される危機を乗り越えたのである。