神に選ばれなかった者達 前編

しかし、そんな生活は長く続かなかった。

いそらの母が、再び子供を身ごもったのだ。

例の社長とはすっかり縁が切れていたから、今度は別の人との子供だ。

またしても気づくのが遅れ、気づいた時には腹が目立つようになっていた。

いそらの母は、中絶しようとした。 

そこで、彼女はスラム街で違法な薬を売る店を訪ねた。

そこに行けば、中絶薬を売っているという話だった。

しかし、彼女はその店で、髪がすっかり白くなった老婆の店主に説明を受けた。

腹が目立つほど胎児が育ってしまうと、堕胎するのは難しくなる。

中絶は、早ければ早いほど身体の負担が少ない。

胎児が大きくなると、危険も大きくなる。

薬を売っても、確実に墮胎出来る保証はない、と。

しかしいそらの母は、そんなことはどうでも良かった。

良いから薬を寄越せ、と半ば脅すように薬を買い、帰ってきて、それを飲んだ。

その時のことを、いそらは覚えている。

いつも通り、母がイライラした様子で帰ってきたと思ったら、不思議な丸い錠剤を飲み。

それから数時間後、母は身体をくの字に曲げて、痛みのあまり悶絶していた。

いそらはどうしたら良いのか分からず、右往左往しながら。

彼に出来たことは、母の下半身から流れる大量の血を、布切れで拭いてやることだけだった。

痛みに七転八倒したいそらの母だったが、結局、墮胎は出来なかった。

腹の中には、未だに赤ん坊が居座っていたのだ。

決して安くはない中絶薬を買い、痛みに苦しみ、挙げ句に中絶には失敗してしまった。

いそらの母にとっては、最悪の結果である。

その腹いせとばかりに、必死に母親を看病しようとしていたいそらを蹴飛ばし。

それから、「お前のせいで」と罵りながら、自分の腹を殴った。

本当に、よく生きていたものだ。

それから数ヶ月後、結局、いそらの母は、自宅で赤ん坊を出産した。

生まれてきたのは女の子。

いそらの妹であった。