神に選ばれなかった者達 前編

…翌朝。

目を覚ました俺は、ベッドからのろのろ起き上がり。

…まず、自分の腕の匂いを嗅いだ。

…何やってるのかと思われそうだが。

夢の中でずっとウサギを抱いていたものだから、獣臭くなってるんじゃないかって…。

だが、あれは夢の中の出来事。

現実の俺は、ただベッドで寝ていただけ。

何の匂いもしなかった。…良かった。

人生で、あんなにウサギに親しみを持ったことはない。

ウサギ小屋に避難させてもらって、感謝しかない。

…よし。

…にんじん、持っていってやろうかな。お礼に。

制服に着替え、俺はキッチンに向かった。

叔母に断ってから、ウサギに持っていく為のにんじんをスティック状にカット。

…していると。

「おはよう、響也兄ちゃん…。今日は早いんだな」

「おはよう」

従兄弟の眞沙が起きてきた。

「しかも、自分で朝ご飯作ってるのか?偉いじゃん」

「いや、これは朝ご飯じゃないんだが…」

「え、そうなのか?野菜を切ってるから…。…え?」 

キッチンに顔を覗かせた眞沙は、俺の手元のまな板を見つめていた。

そこには大量の…にんじんスティック。

「…響也兄ちゃん、にんじん好きだっけ?」

「…嫌いではないぞ」

「そ、そっか…」

でも、これは俺が食べる用ではない。

「お世話になった人…いや、もの…への差し入れだ」

「よ、よく分かんないけど…。ナマのにんじんをそんな大量に…もらって喜ぶ人、いるのか…?」

人じゃない。ウサギだ。

とにもかくにも、俺はにんじんスティックをタッパーに詰めた。

よし。これをあげよう。

そんな俺の様子を、眞沙は奇妙な生き物でも見るかのように見つめていたが。

何を思ったか、ふと思い立ったようにこう言った。

「それにしても響也兄ちゃん、最近元気になって良かったよ」

…え。

「…そうか?」

「一時期、学校にも行けないほど疲れ切ってたことがあったから…」

「…」

…そんなこともあったな。

あれは疲れ切っていたと言うより…悪夢に苦しんでいたんだが。
 
それは今でも変わっていない。

だが、今は戦おうという意思がある。

それが何よりも大切なことだと思う。

「…仲間がいるっていうのは幸せなことだな」

俺は、眞沙に聞こえないよう小さく呟いた。

「え?響也兄ちゃん、何か言った?」

「いや、何でもない」

思えば俺は、これまで一度として友達の一人もいなかった。

生贄という絆で結ばれた関係でも、仲間がいることは有り難いことだった。