神に選ばれなかった者達 前編

昨日は、登校すると机と椅子がなくなっていたが。

果たして、今日はどうなっているだろうか。

今日に限って何もない、ということはあるまい。…多分。

たまには、何もない日があっても良いと思うけどな。

ましてや、今日みたいな日は。

しかし、雨野リリカは期待を裏切らなかった。

学校に到着し、自分の教室に入った途端。

思わず、背筋がゾッとした。

でもそれは、自分の席がなくなっているからではない。

昨夜の夢のことを、嫌でも思い出してしまったからだ。

自分の身体からはみ出した腸が、床にとぐろを巻いているところを思い出したが。

床の上には、当然そんなものはなかった。

…あれは夢なのだから。思い出す必要はないのだ。

何度自分にそう言い聞かせても、未だに身体に残る不気味な痛みが、無意識に恐怖を訴えかけてきた。

更に。

その時、俺が登校して来るのを見た雨野リリカが、こちらを一瞥してニヤッと笑った。

…あの笑みは、何かを企んでいる笑みだ。

やはり、今日に限って何も企んでいないということはなかったらしい。

だが、今日はちゃんと、俺の席はあった。

…これは、素直に助かった。

今日もまた机がなくなっていたら、探すのに苦労するところだった。

さすがに、二日も連続で床で授業を受けるのは御免被りたかった。

だが、だからと言って何もされていない訳ではない。

俺の机の上だけ、ゴミ箱から拾ってきたらしいゴミがぶち撒けられていた。

…成程、そう来たか。

…まぁ、でも昨日に比べれば、随分マシだな。

ゴミくらいなら可愛いものだ。…可愛くはないけども。

俺は淡々と、教室の後ろに設置されている、丸いゴミ箱を手に、机の横に持ってきた。

それから、机の上のゴミを一つ一つ拾って、そのゴミ箱に捨てた。

一体何処から持ってきたゴミなのか、机にぶち撒けられていたゴミのラインナップは、なかなか豊富だった。

お菓子の包み紙やら、空き缶やら、食べかけの腐ったパンのクズやら。

誰かが証拠隠滅の為に捨てたらしい小テストの切れ端やら、鼻を噛んだ後の丸めたティッシュやら。

土が根っこについたままの雑草や、タバコの吸い殻まで混じっていた。

実にバラエティー豊かなゴミ達。

タバコの匂いと腐った食べ物の匂いが混じり合って、何とも言えない臭気を放つゴミになっている。

まぁ、良い匂いのゴミなんて存在しないが。

机の上のゴミを淡々と撤去する俺を、雨野リリカはニヤニヤしながら眺めていた。

ただゴミを捨ててるだけなのに、何がそんなに面白いんだか。

ようやく全部のゴミを捨て終わって、今日はこの程度で済んで良かった、とホッと一安心したが。

しかし、ここまでは、単なる準備運動でしかなかった。

と、そこに。

ガラッと教室のドアが開いて、教師が入ってきた。

「お前らー、授業の準備をしろ。そろそろ始まるぞー」

間延びした口調で、生徒達を促した。

丁度良い。俺もゴミを捨て終わったところだった。