神に選ばれなかった者達 前編

だが、失敗しても失うものは、命しかないからな。

問題ないだろう。

「しかも、こ、これ、ストーンって落ちちゃうんじゃないの?ストーンって」

「…石?」

「そのストーンじゃなくて!その…ひゅーんって、真っ逆さまに落ちちゃうんじゃないの?ってこと」

あぁ成程。擬音語か。

確かに垂直式だと、真っ逆さまに落下しそうで恐怖感を煽られるが。

「トンネルの中はらせん状になっているから、それほどスピードは出ないはずだ」
 
「は、はずって…」

「大丈夫だ。俺が先に降りる」

もし俺がこれを降りて死んでたら、みらくは来ないでくれ。

「君が…?大丈夫なの?」

「もし俺が無事に地上に辿り着いたら、みらくも後を追ってきてくれ」

「う…うん…」

みらくは目を白黒させながらも、何とか頷いた。

さて、それじゃ行くか。

俺は救助袋の入口に足をかけ、そのままストーン、ならぬ。

ひゅーん、と墜落…。

…と、いうことにはならず。

救助袋の中がらせん状になっているお陰で、意外と速度は遅く。

更に、周囲がトンネル状に覆われている為、恐怖感もなかった。

ちょっと変わった滑り台を下っている。ような感じ。

気づいたら、安全に地上に辿り着いていた。

凄いな、これ。

もう一回乗りたいとは思わないが。

無事に地上に辿り着いた俺は、救助袋の中から這い出し。

屋上からこちらを見下ろしているみらくに、大きく手を振った。

遠目からでも分かる。みらくの怯えた顔。

えい、と飛び込めば、あとは自動的に下まで送ってくれるんだけどな。

その一歩の勇気が踏み出せないらしい。

戻れるなら、「意外と怖くないから頑張れ」と伝えてあげられるのだが。

一度降りたら戻れない。あくまで一方通行なのが、この救助袋の欠点だな。

元々避難用だから、戻る機能なんてついてないのが当然である。





 
…その頃、屋上では。

「すごっ…!響也くん、ほんとに降りちゃった…!」

みらくは目を丸くしながら、地面に降り立った俺を見下ろしていた。

「わ、私も行かなきゃ駄目だよね?うぅ…」

救助袋を降りることに対する恐怖、と言うよりは。
 
この安全な屋上を降りて、ゾンビの闊歩する地上に降りる恐怖が、彼女を竦ませていた。

…しかし、最早この屋上も、安全な場所ではない。

そもそも、この悪夢の中に迷い込んだ時点で、安全な場所なんて何処にもないのだ。

…ならばせめて、「一緒に行こう」と言ってくれたあの人に、ついていきたかった。

「よ、よし…。行くぞ…!」

ついに、意を決したみらく。

救助袋の入り口に足をかけ、えいっ、と飛び降りた。