神に選ばれなかった者達 前編

シャワーを浴びると、鬱々とした気分がかなりマシになった。

「…はぁ…」

酷い目に遭った。

何だったんだ、あの夢は…。

普通、夢の中で痛みを感じることなんてあるのか?

これまで、そんな経験は一度もない。

夢の中で転んだことも、車に轢かれたこともあるが、痛みは感じなかった。

それはあくまで、自分の脳みそが作り出した幻だから。

それなのに、夢の中であんなに激痛を感じるなんて…。

しかも、まだその痛みが、身体に残っている気がする…。…気の所為だとは分かっているが。

おまけに、一晩中かけて、あんな生々しい夢を見たせいだろうか。

眠っていたはずなのに、全然寝た気がしない。

まるで一晩眠らなかった時みたいに、身体がダルい。

こんな時に学校に行って、またいつも通り雨野リリカやクラスメイト達に、嫌がらせを受けるのかと思うと。

まだ起きたばかりなのに、非常に憂鬱な気分だった。

…仕方がない。そんな時もあるだろう。…たまには。

気分を切り替える為にシャワーを浴びたのだから、ちゃんと気分を変えよう。

再度自分の部屋に戻って、制服に着替える。

学生鞄に入れようと、ベッドサイドに置きっぱなしにしていたスマホを手に取って、驚いた。

起動ボタンを押していないのに、スマホの画面がついていた。

そして、昨日のアプリが。

アプリケーション一覧の片隅に、『処刑場』という名前のアプリが、また復活していた。

…昨日、二度も削除したのに。

ついでに再起動もしたのに、また…。

最近の不正アプリ、迷惑アプリというのは、こんなにもしつこいのか。

処刑場という、いかにも胡散臭そうな名前がまた、余計に不気味だが。

これはもしかして、携帯ショップに行って見てもらった方が良いのだろうか。

…残念ながら、平日にそんな時間はない。

俺は、改めて『処刑場』をアンインストールした。

アプリケーション一覧から、確かに消えていることも確認した。

それでもし、また勝手にインストールされていたら、その時はちゃんと対策した方が良いかもしれない。

この時点で俺は、『処刑場』を何度もアンインストールするばかりで。

一度として、このアプリを起動してみようとは思わなかった。

あまりにも得体が知れなかったし、それに。

『処刑場』という言葉の意味が、この時はまだ、まるで分かっていなかったのである。