神に選ばれなかった者達 前編

その怯える姿は、かつての俺よりもずっと哀れだった。

恐怖で身体が固まったらしく、その場に縫い付けられたように微動だにしない。

「みらく!しっかりしろ」

「来ないで…。やめて…いや。もう嫌…!」

…駄目か。

俺の声も、聞こえていないようだった。

ゾンビは、そんな動かないみらくをターゲットに定めた。

俺を無視して、ベタッ、ベタッ、と足音を立てながらみらくの方に向かっていった。

…そうはさせるものか。

俺は、みらくに迫ろうとしていたゾンビに、思いっきり体当りした。

「グキャッ!!」

強烈なタックルを受けたゾンビは、悲鳴のような声を出してその場に倒れた。

そこが好機だった。

俺は錐を振り上げ、ゾンビの急所である頭部に、思いっきり振り下ろした。

ぐちゃっ、と錐が頭に突き刺さった。

「ギァァァァ!!」

断末魔の叫びを上げるゾンビの上に、馬乗りになって。

その頭部に何度も、何度も錐を振り下ろした。

飛び起きて、反撃してこないとも限らない。

確実に、息の根を止めなければならなかった。

何度も何度も突き刺して、ついにゾンビは動かなくなった。

「…はぁ…はぁ…」

…やった、か。

ゾンビが動かなくなったのを確認して、俺はようやくゾンビの死体の上から降りた。

そして、粘液まみれの汚い手のまま、後ろを振り向いた。

そこには、みらくが呆然としたまま、ぶるぶると震えていた。

「…大丈夫か?」

「…」

返事がない。怯えた顔のままだ。

「もう…終わった。倒したんだ。お前の命は無事だ」

少なくとも、今、みらくが命を奪われることはない。

生き延びたんだ。死なずに済んだんだよ。

「もう大丈夫だ…。だから、そんなに怯えた顔をするな」

「き…響也、くん…」

ようやく口を開いた。

「何だ」

「君…君こそ、大丈夫なの…?」

…そんな青ざめた顔して、俺の心配か?

「あぁ、大丈夫だ…。…俺も死んでない」

「何で…ここにも、ゾンビが…」

「…」

何で…なのかは分からない。

俺にも確かなことは言えない。…しかし、これまでのゾンビの動きを考えると…。

「…人の気配を察知して、追いかけてきたのかもしれない」

「え…?」

これまでもそうだった。

最初、ゾンビは校舎の中にしかいなかった。

だから俺や『処刑場』メンバーは、人気のない外…ゴミステーションの近くに落とし穴を建設したのだ。

しかし、俺達が外で作業していることを察知して、ゾンビ達は次第に、外に集まってきた。

あいつらは、人の気配をある程度察知することが出来るらしい。

今度は、俺とみらくが屋上にいることを察知して、登ってきたのだろう。

そう考えるのが妥当…というところじゃないだろうか。

「一度居場所がバレたら…この後も…もしかすれば…」

「そんな…。…また来るの?あいつらが…」

「…その可能性はあるな」

「…!」

みらくの顔が、恐怖のあまり強張っていた。