神に選ばれなかった者達 前編

…次の日の朝は、もう眞沙に起こしてもらう必要はなかった。

「はっ…!はぁ…はぁ…」

気がつくと、そこはもう教室の中ではなかった。

見覚えのある、自室の天井が視界に入ってきた。

それなのに俺は一瞬、自分が何処にいるのか分からなくなった。

背中に伝わる感触で、自分がべッドに横たわっているのだと気づいた。

…そう、だ。

目が覚めたんだ。俺は…眠っていたんだ。

ということは…さっきのは…夢、だったんだ。

「はぁ…はぁ…」

息が荒かった。まだ、頭の中が混乱していた。

俺は、思わず自分の腹部に手を当てた。

腹を食い破られた感触が、あまりにも生々しく残っていて。

恐る恐る触れてみたが、内臓は飛び出していなかった。血の一滴も溢れてはいなかった。

引き千切られていたはずの腕も、ちゃんと繋がっていた。

…そうだ。当然だ。

「…夢…か…」

あれは、夢なんだから。

口に出して、ようやく少しホッとした。

そうだ、あれは夢。ただの…夢なんだから。

恐れる必要はない。酷い悪夢だった…。

俺は、のろのろとベッドに起き上がった。

…夢見が悪いせいだろうか。何だか気分が悪い。

三流ホラー映画でもあるまいに、何だってゾンビに襲われる悪夢なんか見てしまったのか…。

あんなにもリアルで、痛みまで生々しく感じる夢なんて初めてだ。

びっしょりと汗をかいていて、気持ち悪かった。

とりあえずシャワーでも浴びようと、俺は自分の部屋を出た。

そこで、丁度起きてきたばかりの眞沙と鉢合わせた。

一瞬、眞沙の顔が昨夜のゾンビに見えた気がして、ゾッとした。

「うわっ…。響也兄ちゃん…どうしたんだよ?」

飛び出すように部屋から出てきた俺にびっくりして、眞沙が声を上げた。

同時に、俺も気がついた。

目の前にいるのは、夢の中で見たゾンビなんかじゃなく。

ちゃんと生身の人間。従兄弟の眞沙だということに。

「今日はえらく早起きだな…。…それに、顔色悪いけど…」

「…大丈夫だ」

「本当に?汗も凄いぞ」

知ってる。

「…本当に大丈夫だ。ちょっと…。…夢見が悪かっただけだから」

「そ、そうなのか…」

「気にしないでくれ」

夢の内容を詮索されるのが嫌で、俺はすぐに眞沙の前から離れた。

あろうことか、眞沙がゾンビに見えるなんて…俺はどうかしている。

あんな夢を見たせいだ。