神に選ばれなかった者達 前編

夜。

夢の中にやって来た俺は、昨日の約束通り。

真っ直ぐに、屋上に向かった。

屋上に繋がるドアノブを捻ると、

「…っ!」

「…あ…」

そこに、青ざめた少女が立っていた。

しかも、何故か片手に小枝を持って。

…夜蛾みらくである。

小枝を振り上げていた彼女だが、俺を見つけるなり。

へなへなと、小枝を持つ手を降ろした。

「良かった…。…君か…」

「…ゾンビだとでも思ったのか?」

「うん…」

そうか。正直だな。

「大丈夫だ。ゾンビではない」

「そっか…そうだね。良かった…。今日も来てくれるって思わなかったから…」

は?

「…約束しただろう?」

「うん…。約束はしたけど、でも…本当に来てくれるかどうかは分からないでしょ?昨日会った君が…昨日だけの、夢の中の産物だとも限らないし…」

「成程…。それもそうだな…」

夜蛾みらくにしてみれば、そうだな。

所詮は夢の世界での出来事なのだから、確かなことなど何もない。

昨日会った人間に、今日も、明日も夢の中で会えるとは限らない。

それが当たり前なのだ。…常識なら、な。

残念ながらこの悪夢は、常識では測れない世界だ。

有り得ないことでも、何でも有り得る。

「可能であれば、約束は守る。出来る限りな」

「そっか…。良い人だね、君…」

そうか?

約束を守るのは、人として当然だと思うが。

…ところで。

「…その小枝は何だ?」

「へっ?」

俺は、みらくが手に持っている小枝を指差した。

地面に放り投げたら、パキッと折れそうなほど頼りない小枝である。

…何処から持ってきたんだ?それ…。

「あ、うん…。昨日、使った椅子がなくなってたから…」

「…」

「その代わりに…と思って」

「…もしかして、それが武器のつもりだったのか?」

「うっ…。そ、そうだけど…やっぱり、無理かな…?」

そんな枝の切れっ端じゃ、ゾンビどころか、そこら辺を飛んでるハエも倒せないと思うぞ。

「他に武器になりそうなものが見つからなかったから…」

「俺が昼間、持って入ってしまったからな…あの椅子…」

「え?」

「いや、こっちの話だ」

どうやら、現実で回収してしまったことにより。

昨日まであった机と椅子が、なくなってしまったらしい。

現実の事象が、夢の中に影響している数少ない例である。

これなら、片付けない方が良かったか?

でも、いつまでも床で授業を受ける訳にもいかなかったし…。無理もない。